今年夏に発生した、大雨、台風、地震といった災害では、被災した外国人の方が、災害の状況や避難場所が分からなかったり、炊き出しの情報が伝わらず、受けられるはずの支援が受けられなかったりしました。けれども日本に住んでいるすべての外国人の母語で情報を提供するのは困難です。どうすればいいのでしょうか。
そのような時のために、「やさしい日本語」が考案されています。「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人も分かりやすい日本語のことです。
分かりやすくしたいことばは、ほかにもあります。たとえば、「病院の言葉」です。医療関係者が一般の方に症状や薬の使い方を説明するとき、難しい漢語や日常的に使う意味と異なる語が用いられているために、一般の方には正しく伝わらないことがあります。
「やさしい日本語」や「病院の言葉」などに問題意識や関心をお持ちのみなさんに、書籍『シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う』をおすすめします。5部構成のうちの「第1部 言語問題の発見と対応」に、問題とその対応とがくわしく述べられています。
書名 | 『シリーズ社会言語科学 2 社会言語科学の源流を追う』 |
編者 | 横山詔一(国立国語研究所 教授) 杉戸清樹(国立国語研究所 名誉所員) 佐藤和之(弘前大学人文社会科学部 教授) 米田正人(国立国語研究所 名誉所員) 前田忠彦(統計数理研究所 准教授) 阿部貴人(専修大学文学部 准教授) |
出版社 | ひつじ書房(出版社の詳細ページへ) |
出版年月日 | 2018年9月18日 |
ISBNコード | 978-4-89476-931-1 |
価格 | 3,900円+税 |
「社会言語科学」って何? と思われる方も多いかと思います。「言語・コミュニケーションを、人間・文化・社会との関わりにおいて取り上げ、そこに存在する課題の解明を目指」す言語学の一分野です(社会言語科学会ホームページ より)。そう言うと、なんだか難しそう、と思われるかもしれませんが、人間が生きる社会や文化と、ことばとの関係という、とても身近な問題について考える分野です。
例えば前半では、災害時に外国人の方に必要な情報を分かりやすく伝える「やさしい日本語」の実践例や、外来語言い換え提案、「病院の言葉」を分かりやすくする工夫の提案など、一般の方にもいろいろな場面で参考になる事例が紹介されています。自分が作成した文章のどこが難しいか、外国人に伝わりにくいかを教えてくれるアプリケーションの紹介もあります。
特に第1章はキーワードごとにまとめられていますので、興味・関心のあるテーマから選んで読むことができます。学校の総合学習等で調べ物をする生徒さん・先生にもおすすめです。
後半には、国立国語研究所が中心に長年にわたって調査してきた「鶴岡調査」に関する内容も載っています。科学的データを収集する調査の実際やデータ解析の方法論について分かりやすく解説していますので、これから言語学の研究者を目指す学部生・大学院生におすすめです。
第1章 言語問題キーワード集
第2章以降は、ひつじ書房の本書紹介ページをご覧ください。
国立国語研究所では、ことばに関する資料を多数公開しています。国立国語研究所のサイト(https://www.ninjal.ac.jp/)にある検索窓で、「やさしい日本語」や「病院の言葉」などのキーワードを入力し、検索してみてください。
このような方におすすめします