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2018.12.19 2018年12月19日 書籍

書籍紹介 : シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う

災害時、困っている外国の人たちにどう伝える?

今年夏に発生した、大雨、台風、地震といった災害では、被災した外国人の方が、災害の状況や避難場所が分からなかったり、炊き出しの情報が伝わらず、受けられるはずの支援が受けられなかったりしました。けれども日本に住んでいるすべての外国人の母語で情報を提供するのは困難です。どうすればいいのでしょうか。

災害時に困惑する外国人

「やさしい日本語」を使って伝えましょう

そのような時のために、「やさしい日本語」が考案されています。「やさしい日本語」とは、普通の日本語よりも簡単で、外国人も分かりやすい日本語のことです。

やさしい日本語を使った救援食糧配布のお知らせ
「無料」を「やさしい日本語」で言い替えた「炊き出し」を知らせる掲示物。 『シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う』p.74 より

「やさしい日本語」のガイドライン(例)

  • 難しいことばを避け、簡単な語を使う
  • 主題となるキーワードは始めの方に持ってくる
  • 1文を短くする
    ※単文を平仮名だけで書いて24文字以内、多くても30文字まで
    ※災害時によく使われることばや知っておいた方がよいと思われることばは、そのまま使う
  • 見出しだけは、居住している外国人の複数の言語で書く
  • 漢字の使用量に注意しルビ(振り仮名)を振る(p.75)
    (佐藤和之「第2章 「社会」を識別指標にする言語学 : 「やさしい日本語」と鶴岡調査のウェルフェアを考える」)

「病院の言葉」を分かりやすくするには?

分かりやすくしたいことばは、ほかにもあります。たとえば、「病院の言葉」です。医療関係者が一般の方に症状や薬の使い方を説明するとき、難しい漢語や日常的に使う意味と異なる語が用いられているために、一般の方には正しく伝わらないことがあります。

病院

「やさしい日本語」や「病院の言葉」などに問題意識や関心をお持ちのみなさんに、書籍『シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う』をおすすめします。5部構成のうちの「第1部 言語問題の発見と対応」に、問題とその対応とがくわしく述べられています。

書籍紹介 : シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う

社会言語科学の源流を追う (シリーズ社会言語科学 2)

書名 『シリーズ社会言語科学 2 社会言語科学の源流を追う』
編者 横山詔一(国立国語研究所 教授)
杉戸清樹(国立国語研究所 名誉所員)
佐藤和之(弘前大学人文社会科学部 教授)
米田正人(国立国語研究所 名誉所員)
前田忠彦(統計数理研究所 准教授)
阿部貴人(専修大学文学部 准教授)
出版社 ひつじ書房(出版社の詳細ページへ)
出版年月日 2018年9月18日
ISBNコード 978-4-89476-931-1
価格 3,900円+税
内容紹介

「社会言語科学」って何? と思われる方も多いかと思います。「言語・コミュニケーションを、人間・文化・社会との関わりにおいて取り上げ、そこに存在する課題の解明を目指」す言語学の一分野です(社会言語科学会ホームページ より)。そう言うと、なんだか難しそう、と思われるかもしれませんが、人間が生きる社会や文化と、ことばとの関係という、とても身近な問題について考える分野です。

例えば前半では、災害時に外国人の方に必要な情報を分かりやすく伝える「やさしい日本語」の実践例や、外来語言い換え提案、「病院の言葉」を分かりやすくする工夫の提案など、一般の方にもいろいろな場面で参考になる事例が紹介されています。自分が作成した文章のどこが難しいか、外国人に伝わりにくいかを教えてくれるアプリケーションの紹介もあります。

特に第1章はキーワードごとにまとめられていますので、興味・関心のあるテーマから選んで読むことができます。学校の総合学習等で調べ物をする生徒さん・先生にもおすすめです。

後半には、国立国語研究所が中心に長年にわたって調査してきた「鶴岡調査」に関する内容も載っています。科学的データを収集する調査の実際やデータ解析の方法論について分かりやすく解説していますので、これから言語学の研究者を目指す学部生・大学院生におすすめです。

目次

第1章 言語問題キーワード集

  1. 減災のための「やさしい日本語」
    1. 概説 水野義道
    2. 『災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル』 御園生保子
    3. 外国人用地震災害基礎語彙100 佐藤和之
    4. 「やさしい日本語」の有効性検証実験 米田正人
    5. 日本在住外国籍社会人調査 水野義道
    6. 読み方スピード調査 伊藤彰則
    7. やんしす 「やさしい日本語」化支援システム 伊藤彰則
    8. やさしい日本語全国マップ 前田理佳子
    9. 「やさしい日本語」の放送用表現 前田理佳子
    10. 掲示物描き方規則 前田理佳子
    11. 「やさしい日本語」案文 御園生保子
  2. 外来語言い換え提案 杉戸清樹
  3. 「病院の言葉」を分かりやすくする工夫の提案 杉戸清樹
  4. 言語問題への対応の広がり
    1. 概要 杉戸清樹
    2. News Web Easy 阿部貴人
    3. 公的文書における〈やさしい日本語〉 森篤嗣
    4. 裁判員のために法廷用語をやさしく 杉戸清樹

第2章以降は、ひつじ書房の本書紹介ページをご覧ください。

「やさしい日本語」や「病院の言葉」に関心をお持ちのみなさんへ

国立国語研究所では、ことばに関する資料を多数公開しています。国立国語研究所のサイト(https://www.ninjal.ac.jp/)にある検索窓で、「やさしい日本語」や「病院の言葉」などのキーワードを入力し、検索してみてください。

防災、医療、教育の現場でお役立てください

このような方におすすめします

  • 自治体や町内会の防災関係者
  • 病院・医療関係者
  • 学校の先生
  • 中学生・高校生(総合学習などのテーマ学習に)
  • 大学生・大学院生など、日本語学・日本語教育の研究を志す方
  • 日本語教育関係者