Vol. 1 (創刊号 2017年3月発行)
日本語は地域(方言)によって単語のアクセント(音の高低)が大きく異なることが知られています。たとえば標準語(東京方言)と鹿児島方言では、基本的な語彙のアクセントがほぼ逆になります。
このような単語レベルの発音の違いは以前よりよく知られていましたが、文の発音(イントネーション)についてはあまり研究がなされてい ませんでした。近年になってその研究が徐々に進んできており、たとえば疑問文のイントネーションにも方言差が大きいことが分かってきています。
標準語や近畿方言では文の最後をあげて疑問文を作ることが知られています。たとえば東京で「雨」という語を発音すると図1のようになり、それを「雨?」という疑問文にすると図2のように文末が上がります(赤丸)。
一方、鹿児島方言はこれとはまったく逆で、文末を下げて疑問を表します。「雨」だけだと図3のように語末(文末)は比較的高く発音されるのですが、疑問文として「雨?」と聞くときは、図4のように文末が下がって発音されます。これは「雨」に限らず、すべての語にあてはまります。この方言では文の最後を積極的に下げることによって疑問の意味が表されるのです。
日本語だけを見てもこのような地域差が見られますので、研究対象を世界の諸言語に広げると、さらに大きな違いが観察されることが予想されます。
「対照言語学」プロジェクトでは、このように日本語を内からと外からの両方から見ることによって、日本語の特性と多様性を明らかにすることを目指しています。研究対象は上記のような音声だけでなく、文法や意味にまで及びます。
窪薗晴夫
KUBOZONO Haruo
くぼぞの はるお●理論・対照研究領域 教授。専門領域は言語学、日本語学、音声学、 音韻論、危機方言。神戸大学大学院人文学研究科教授を経て、2010年4月から現職。