ことばの波止場

Vol. 2 (2017年9月発行)

著書紹介 : テキストにおける語彙的結束性の計量的研究

山崎誠

和泉書院 2017年2月

テキストにおける語彙的結束性の計量的研究
『テキストにおける語彙的結束性の計量的研究』書影

本書は、テキスト分析において、特定少数の材料についての経験則からくる直感的説明や、“こういう傾向があるのではないか”といった曖昧な分析を排し、コーパスを存分に活用して、計量言語学的なクリアな方法で多角的な分析を試みている。各章においては、懇切に語の採取法やデータ算出法、グラフ・表とその読み取りや、考察結果の明示、解決できなかった点の提示等がなされている。

全篇スリリングだが、特に着目した5点を列挙する。①結束性に比べて計量的な研究が進んでいない「一貫性」について取り上げて、語のランダムな入れ替え、テキストの前半後半を別のテキストから選んで合成する、等の科学的な実験とでも言える手法で分析、②通常あまり対象にしないリストタイプのテキストも扱う、③多義語の、ある語義への文脈中における集中度の測定、④いわゆる「無性格語」や隣接段落間の共起語など諸データや理論や解釈をふまえ、全く新しい角度である“語彙の結束性を基にしたテキストの構成図”を提示、⑤テキストの構成単位としての「意味的段落」を、異なり語数増加率等の客観性が担保できる方法で切り出す、等々である。本書は、コーパスを使用したテキスト分析や語彙研究に新しい方向性を示すのは勿論、例えば国語辞典の語義・用例の示し方の再検討や、「無性格語」の再定義を促す等、日本語の捉え方全体に見直しを迫るだろう。

▶高崎みどり(お茶の水女子大学)