Vol. 3 (2018年3月発行)
──どういったご研究を?
外国人が日本語を勉強するとき、どんな問題があるか。どうしたらうまく上達できるかということを研究しています。大学院の時代は、外国人向けの日本語教育を専門として勉強しました。今の仕事もそれと関わっていて、とても面白いなと思っています。
以前は「聞く」「話す」を中心に研究していましたが、今は、「読む」「書く」も見ています。
──それは文法的なことですか?
文法というよりは、談話分析と会話分析のほうです。名古屋大学には当時大曽美恵子先生や尾崎明人先生をはじめ、談話分析の分野で有名な先生がいました。おそらく他の大学に比べると、これらの分野の授業が多かったのではないでしょうか。授業内容が面白かったこともあり、自分の修士と博士のときのテーマとして研究してきました。
また、社会言語学とも少し関わるのですが、アカデミックというよりは、実用的なことに焦点を当てて考えたいと思っています。例えば、外国人の会社員が日本・海外の日系企業で仕事をするときの言語のコミュニケーションの問題に関心があります。
──自分の研究でここが面白いというところは。
ポライトネス(配慮表現)や語用論的(表現の捉え方)な問題です。とても日本語が上手な人なのに、ある場面になると何か変になるケースがありますよね。例えば、遅刻する場合は、日本人はまず謝ります。でも、外国人は理由からだらだらと説明するので、日本の方から見ると、「この人、本当に悪いと思っているのかな」と思うわけです。こういう点はなかなか学びにくいです。
自分も実は、学生時代に会社で研修生の翻訳・通訳のアルバイトをしていて、同じような説明をして日本人の上司によく怒られていました。
──大変だったことがたくさんありそうですね。
実は山ほどあります。例えば、ディスカッションをするときには、中国人は、自分の意見をストレートに出します。相手のことにすごく反論して怒られても、何か結論が出てくればいいと考えます。
日本人の場合は、相手との人間関係を維持するため、できれば相手と直接ぶつからないように相手に合わせたり、本当は正反対の意見を持っていても、今この場ではもう議論をやめて後でお話をしましょうとなったりします。
問題を解決するために自分の考えを率直に言っても「後でお話をしましょうか」と言われて、本当に後で話をしてくれるかなとすごく期待をしたのに、何もないようなことになっていて、「え?」っていう経験もあります。どうすればいいかなと(笑)。
──今は、ビジネス日本語のほうにご興味があるのでしょうか。
二つの柱があります。一つは「アカデミック日本語」で、そちらのほうは「書く」と「読む」、つまり、文章理解の研究をやっています。例えば、一つの文章を読み、知らない単語がたくさん出てくるとき、何かを手掛かりにして推測すれば、知らなくてもうまく理解できます。その習得のメカニズムを研究しています。
もう一つの柱が「ビジネス日本語」です。その中でさらに二つにわかれます。
一つは、研究所の石黒圭先生の下で「クラウドソーシングと表現」について研究を行っています。例えば、求人情報を書くときに、「この仕事内容についてどういうふうに書けば応募しに来る人にとって分かりやすいか」ということを取り扱います。
外国人がこのクラウドソーシングを利用するケースも増えてきています。発注は日本国内ではなく海外になる場合もあります。海外のワーカーに日本語の発注文書をどう分かりやすく読んでもらえるかということも考えています。
仕事が決まればその後、発注者と受注者の間でも何回もやり取りがでてきます。やり取りの日本語も研究したほうがいいかなと思っています。効率よく、お互いに理解できれば、次の契約につながるのではないでしょうか。
もう一つは、大学院での研究の続きになりますが、実際に日系企業で働いている外国人を対象に、自然会話のデータを取ることを考えています。
「仕事においてどういう問題があるのか」ということについて多くの外国人の方にインタビューをして、分析したいと思っています。
蒙 韞
MENG Yun●日本語教育研究領域 プロジェクトPDフェロー。中国・広西チワン族自治区出身。岐阜大学・名古屋大学で日本語、日本語教育を学ぶ。2010年3月に博士号取得。2016年4月から現職。