Michinori Shimoji
九州大学出版会 2017年2月
『A Grammar of Irabu』書影
文法のあるべき姿を示すものとして、すべての言語研究者に本書を強く薦めたい~田窪所長も帯に書いているが、これにつきると思う。本書は著者が2008年にオーストラリア国立大学に提出した博士論文の加筆修正版であり、南琉球宮古伊良部島方言を独立した言語体系としてとらえ、その全体像を体系的・包括的に記述した参照文法である。国外の状況とは異なり日本ではそれまで若手研究者が参照文法を博士論文として執筆することはなかったが、著者の博士論文以降、多くの若手研究者によって琉球諸語の参照文法が博士論文として執筆された。詳細な目次を見てもわかるように「参照文法とはどのようにして書くか」が明確に示されており、このような方法論を本書によって国内の研究者たちが手にしたと言えるだろう。また本書は言語理論を持ち、かつ曇りなき眼で一つの言語の記述に臨むことの重要性も伝える。例えば伊良部島方言の韻律は高低が繰り返しあらわれるという特徴を持つが、著者は日本のアクセント研究の諸前提を一度すべて捨てて再考することで正確な記述を可能としただけでなく、英語のストレス規則の一般化とも関連させ、韻律類型論におけるトーン言語とストレス言語の壁を打ち破りもしている。
▶山田真寛(国立国語研究所)