ことばの波止場

Vol. 4 (2018年9月発行)

著書紹介 : 連濁の研究 ―国立国語研究所プロジェクト論文選集―

ティモシー・J ・バンス

金子恵美子、渡邊靖史 編
開拓社 2017年11月

連濁の研究
『連濁の研究』書影

日本語における「連濁」現象は、19世紀末のお雇い外国人ライマン氏の論文以来、未解決の問題も含めて多くの関心を集めてきた。連濁は、直接的には分節音に関する現象であるものの、語種(和語・漢語等)、音韻環境、語構造、意味、あるいはアクセントなど多くの言語事象と関っている。本書は、ライマンの法則を含む連濁の基本的諸性質の記述から始まり、研究史、生成音韻論に基づく解釈、心理言語学的アプローチなど、新たな観点からの成果が盛り込まれている。評者は、30年ほど前に一時期連濁の研究に携わっていたことがあり、通時的観点からの研究の必要性を痛感していたが、そうした研究の発展も取り上げられている。また、当時、「姫」や「紐」が何故連濁しないかについて、連濁によって唇音が連続すると発音し難いことと関連があるのではないかと思っていたが(「飛び火」の「火」が濁音化しないのと同じ)、それがOCP(必異原理)として洗練された形で説明されているのも興味深かった。本書は、連濁研究としては初めての成書であり、連濁をこれから学ぼうとする初学者にとっては好個の1冊である。また研究者にとっては、研究途上の内容も記載されているので、未解決の課題を知り、研究テーマを探るうえでも有用な書物となるであろう。

▶佐藤大和(東京外国語大学)