ことばの波止場

Vol. 5 (2019年3月発行)

著書紹介 : 日本語語彙的複合動詞の意味と体系 ― コンストラクション形態論とフレーム意味論

陳奕廷・松本曜

ひつじ書房 2018年2月

書影 日本語語彙的複合動詞の 意味と体系
『日本語語彙的複合動詞の意味と体系』書影

「放り投げる」は「放る+投げる」,「食べ歩く」は「食べる+歩く」,「寝そべる」は「寝る+そべる」だろうか?本書は,日本語に三千以上存在する(語彙的)複合動詞を認知言語学の観点から包括的・体系的に考え直す意欲作であり,二つの意味で「1+1≠2」を実証している。

第一に,本書は姉妹理論である「構文文法」と「フレーム意味論」の相乗効果を示すことに成功している。Charles Fillmore氏を中心に発展してきた両理論は,40年ほどの歴史を有するものの,その相補性をここまで明確な形で例証した研究は稀である。特に,語レベルの構文文法である「コンストラクション形態論」については,国内初の概説となる。

第二に,本書は両理論を駆使することで,複合動詞が動詞と動詞の足し合わせだけでは説明しきれないことを主張する。複合動詞は日本語研究の一大テーマであり,これまで多くの研究者がその足し算の方法を論じてきた。しかし,「食べ歩く」が独特な移動経路を表すことや,「寝そべる」の「そべる」が単独では使われないことからもわかるように,そのような足し算には問題がある。本書が提示する解法には,複合動詞研究にとどまらないヒラメキがある。

▶秋田喜美(名古屋大学)