ことばの波止場

Vol. 6 (2019年9月発行)

著書紹介 : シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う

横山詔一・杉戸清樹・佐藤和之・米田正人・前田忠彦・阿部貴人 編
ひつじ書房 2018年9月

シリーズ社会言語科学2 社会言語科学の源流を追う
『シリーズ社会言語科学2社会言語科学の源流を追う』書影

平成から令和への移行を機に、変容する日本社会と、それにともなって変わる日本語に思いをいたした向きも多かったろう。特に、災害の頻発と、来日外国人の増加は、私たちの日本語の運用に変革を迫っていると感じる。その象徴的なものが、災害時に外国人に緊急情報を伝える効果のある「やさしい日本語」の普及である。

日本の社会言語学の、近年目立っている潮流と、源流から長く続く流れとの両面をとらえる本書は、近年の潮流としての「やさしい日本語」から説き起こし、そこに流れ込んでいる、源流としての山形県鶴岡市での共通語化の定点経年調査を、様々な角度から解説する、野心作である。その解説は、調査・分析法、言語変化のモデルなど、精緻かつ高度なところに及んでいるが、その調査の基底をウェルフェア・リングイスティックス(福祉の言語学)の理念が支えてきたという主張が、強い印象を残す。

この理念は、平成になって設立された、本シリーズの母体である社会言語科学会が掲げるものであるが、実は、昭和から平成にかけて、国立国語研究所が重ねてきた、大規模社会調査の底流に流れ続けてきたものであったという、日本の社会言語学史を貫く一筋を明示した意義は大きい。

▶田中牧郎(明治大学)