ことばの波止場

Vol. 7 (2020年3月発行)

刊行物紹介 : 病院の言葉を分かりやすく—工夫の提案—

国立国語研究所「病院の言葉」委員会 編著
勁草書房、2009年

病院の言葉を分かりやすく―工夫の提案―
『病院の言葉を分かりやすく—工夫の提案—』書影

病院では、医療の専門家である医師・看護師などの「医療者」と非専門家である「患者」のコミュニケーションが何よりも大切である。しかし、現実には両者の間に分厚い「言葉の壁」があって、意思疎通がままならない。言葉の壁の正体を明らかにして、医療現場の改善に役立てることはできないものか。そんな思いを共有する医療者と言語研究者が、多様な調査に基づき議論を重ねて作り上げたのが本書である。

医療者が患者に分かりやすく伝えるための具体的な方策を、難解な57語を3つの類型に分けて解説した点に大きな特長がある。本編は医療の素人である患者や家族の立場・気持ちに配慮した伝え方の解説で一貫しているが、読み物としてのコラムや挿絵も沢山あって、一般の人が難解な医療用語に近づくための解説本としても十分に活用できる。

21世紀の初め、独立行政法人となった国立国語研究所が、「「外来語」言い換え提案」に続いて実社会の言語問題に積極的に取り組んだ成果の一つである。刊行から10年余を経過した現在でも、医療の現場や教育方面での需要が絶えないと聞く。医療の進歩が著しいなか、本書に示された工夫の枠組みを検証する新たな調査研究が期待される。

▶ 相澤正夫(国立国語研究所名誉教授)

※ 国立国語研究所が70年の歴史において刊行してきた資料・報告のうち、代表的なもの(の一部)を紹介しています。