Vol. 7 (2020年3月発行)
ハンディで内容がコンパクトにまとまっていて,「フィールドワークに持って行く」(はしがき)だけでなく,論文を読む際にまめに参照したり,読み物として最新の成果を手軽に把握したり,と,いろいろな利用ができそうな辞書である。
項目は,記述重視の立場から,文法と,次いで音声・音韻に関するものが多いが,地理的,社会的,計量的研究の基本事項や,調査法,方言文献などにも目配りがされている。「スイッチリファレンス」「ミラティビティ」のように,従来の方言学にはなじみのなかった用語は,理解の助けになるし,「動詞」「否定表現」「漢語」といったなじみの項目では,日本語諸方言で問題となる観点が,具体例とともに簡潔に示されている。「共通語」を立項せず,「標準語」の項の中で触れるに止めるなど,本書独自の立場もうかがわれる。
日本の方言研究は,1950年代には記述的研究が盛んで,その後,地理的研究,社会的研究,計量的研究と,主要な研究法が変遷してきたとされる。2010年代には再び琉球方言を中心に記述研究が盛んになっている。本書は,そのような螺旋状に進展する方言学の前線を照らす辞書であると言えよう。
▶ 三井はるみ(國學院大學)