ことばの波止場

Vol. 8 (2020年9月発行)

著書紹介 : 近現代日本語の「誤用」と言語規範意識の研究

新野直哉
ひつじ書房 2020年2月

近現代日本語の「誤用」と言語規範意識の研究
『近現代日本語の「誤用」と言語規範意識の研究』書影
本書は、『現代日本語における進行中の変化の研究』(ひつじ書房2011年)に続く、著者による2冊目の著書である。否定を伴わない“全然”、“気がおけない”、“名前負け”など「誤用」が指摘される語句の通時的考察、これまで未紹介の言語研究・言語規範意識研究に資する昭和期資料の紹介と具体的言語現象および課題の提示が行われている。

著者は「誤用」を、〈「誤りである」という意識が社会一般に相当程度定着しているような使い方〉と定義し、「誤用」が客観的な存在ではなく使用者の意識によって決定づけられるものであることを述べる。そこから、人々の言語規範意識を示す言説を確認・分析することが必要であるとする。

考察の姿勢は徹底した実証主義であり、用例や先行研究の博捜と丁寧な資料の扱いには目を見張るものがある。コーパス・データベースの活用は当然であるが、「どうやって見つけたのか」と驚く例が多数示されている。できるだけ原本に当たり、各用例を丁寧に分析して先行研究の誤りを正すなど、その真摯な研究姿勢が見て取れる。また昭和期新資料の紹介と課題提示も価値が高く、その探索と研究への活用は、今後大いに進展すべきものと期待される。

▶ 橋本行洋(花園大学)