ことばの波止場

Vol. 8 (2020年9月発行)

著書紹介 : 語彙の原理―先人たちが切り開いた言葉の沃野―

石井正彦 編

朝倉書店 2019年10月

語彙の原理
『語彙の原理―先人たちが切り開いた言葉の沃野―』書影

本書はシリーズの第1巻だが,1冊で「講座」になっているような印象を受ける。実際,第1章などは,講座スタイルの記述の典型ともいえるもので,大変わかりやすいと感じる。本書が「講座」のような性格のものだと考えれば,語彙の分野の入門書を兼ねるものでもあり,初学者の学びの助けになるものを目指したものととらえることができよう。しかし,たとえば第2章「語彙の分類」などは,本書の想定読者である初学者にとっては,若干敷居が高いのではなかろうか。

第3章「語彙の体系」では「身につける物」と「着る,はく,かぶる」などの動詞の共起関係(コロケーション)を論じている。しかし,「帽子,ヘルメット」などは「かぶる」と共起するというように名詞と動詞の共起で説明するのでは,本質を見失う。パンツははくものだが,かぶることだって可能である。つまり,この現象は名詞と動詞の共起ではなく,身体のどちらの方向から身につけるかで動詞を使い分けているのであって,名詞と動詞の共起に見えるのは,現実的にそれぞれのものがどのように身につけられるかが固定的だからに過ぎない。

一部に問題があるにせよ,全体としてはわかりやすい記述になっており,本書のねらいは十分に達成されていると思われる。

▶ 荻野綱男(日本大学)