ことばの波止場

Vol. 9 (2021年3月発行)

著書紹介 : 段落論―日本語の「わかりやすさ」の決め手

石黒圭
光文社、2020年2月

段落論 日本語の「わかりやすさ」の決め手
『段落論』書影

1950年に時枝誠記が文章論を提唱して以来、文章の成分としての「段落」研究は、「段(文段・話段)」の研究へと発展的に継承され、今日においても文章・談話論研究の中心的なトピックであり続けている。本書の筆者は、先行研究で様々に定義される「段落」を実用の観点から整理し、「わかりやすさを重視したコミュニケーション」のための『段落論』を展開する。

本書は、文章と談話の表現と理解(「読む・書く・聞く・話す」)において「全体(構え)」と「部分(流れ)」を意識することが重要だとし、この「全体」と「部分」とをつなぐために、階層構造を有した「フォルダとしての段落」が有効であると論じる。

全体の構成(発想)から実際の言語表現(文字や音声)に至るまで、豊富な実例とともになされる説明は、長い文章や談話のコミュニケーションが苦手だという人だけでなく、学生の不可解な改行(形式段落)に悩まされながら日々作文指導に奮闘する人にも、多くの実用的なヒントを与えてくれる。「段落」の現状を見渡し、インターネットの普及による「形式段落」の変容には人間の思考に深い影響を及ぼす時代性が反映されているとする筆者の指摘は、我々読者をさらなる議論に呼び込む起点となるだろう。

▶宮澤太聡(中京大学)