ことばの波止場

Vol. 10 (2021年9月発行)

著書紹介 : 日本語研究と言語理論から見た言語類型論

窪薗晴夫、野田尚史、プラシャント・パルデシ、松本曜 編
開拓社、2021年2月

日本語研究と言語理論から見た言語類型論
『日本語研究と言語理論から見た言語類型論』
書影

言語類型論という分野は自分が手掛けるには敷居が高いが、(I)「言語類型論の研究が個別言語の研究にどのように関わるか」あるいは(II)「類型論研究が理論言語学研究とどのような接点を持ちうるか」には大いに関心がある、という研究者は多いと思われる。本書は、そのような研究者にとって非常に有益な論文集である。

本書の「第I部 日本語と言語類型論」(第1~8章)は(I)の問いに関わり、日本語の「アクセント」「諸方言のイントネーション」「オノマトペ」「主題」「とりたて表現」「語順」「有対動詞」「移動事象表現」の、いずれも、日本語から言語類型論研究に貢献できる可能性の高いトピックが選ばれている。「第II部 言語理論と言語類型論」(第9~12章)は(II)の問いに関わり、「最適性理論」「生成文法」「計算言語学」「認知言語学」の4つの理論言語学分野が言語類型論と対置されており、読み応えのあるレビューと評言が提示されている。

国語研は外部の共同研究者の協力が不可欠であるが、本書も、オノマトペ(第3章)、語順(第6章)、認知言語学(第12章)など、このテーマならこの人という人選の妙が随所に光る好著である。

▶堀江薫(名古屋大学)