ことばの波止場

Vol. 10 (2021年9月発行)

著書紹介 : 顕在化する多言語社会日本―多言語状況の的確な把握と理解のために

福永由佳 編、庄司博史 監修
三元社、2021年1月

顕在化する多言語社会日本
『顕在化する多言語社会日本
―多言語状況の的確な把握と理解のために』書影

日本社会がこれまで持ち合わせてきた「多様性」が、多くの人に認識されるようになりました。近年、これは「ダイバーシティ」として、さまざまなセクシャリティ、人種、年齢、国籍、宗教、生涯などの違いを受用する社会の実現を目指した概念として使われるようになりました。このダイバーシティを論じる上で、重要になるものの一つが言語です。

近年、日本に滞在する外国人の増加による「国際化」「多言語化」が取り上げられるようになりました。日本社会は昔から多言語社会でしたから、「多言語社会日本」に新たな展開が見られたわけです。本書では、多言語社会としての日本をより的確に捉える視点を設定することを目的に、この分野の研究を牽引してきた研究者たちによる考察がなされています。そこでは多言語社会をめぐる理論的枠組みや具体的な事例に基づいた課題が取り上げられています。

ダイバーシティの観点から見た日本語研究は、今後の言語研究において最も重要な研究課題の一つになるでしょう。多言語社会の「顕在化」はこれからも進んでいきます。その状況をより的確に捉えるための言語研究を行うことを本書では主張しています。その現状、研究の観点を把握する意味でも、必読の一冊です。

▶朝日祥之(国立国語研究所)