Vol. 11 (2022年3月発行)
日常会話を中心に話し言葉の特性を分析できる大規模なコーパスを構築・公開することを目標に、プロジェクトの活動を進めてきました。200時間の会話を映像を含めて公開する『日本語日常会話コーパス(CEJC)』のほか、『国会会議録』や『昭和話し言葉コーパス』、『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』小説会話文の話者情報など、この6年間で多様な話し言葉の研究資源を公開することができました。詳細は本誌6号(6〜9頁)をご覧ください。
こうしたコーパスを活用して、どのようなことが分かるでしょうか。ここでは、副詞「やはり」の語形「やはり/やっぱり/やっぱし/やっぱ」がどのように用いられているかを、複数のコーパスを活用して調べてみようと思います。
『現代日本語書き言葉均衡コーパス』とCEJC を用い、書き言葉と日常会話を比べてみました(図・左)。白書では「やはり」しか用いられていないのに対し、新聞、ブログとなるにつれ「やっぱり」が増え、ブログでは「やっぱ」の使用が見られます。一方、日常会話では、議会会合のような比較的改まった場でも「やはり」はあまり用いられず、雑談にいたってはほとんど使用されません。代わりに用いられるのは「やっぱり」「やっぱ」で、特にブログと比べて「やっぱ」の使用の多さが目立ちます。
日常場面ではどの世代の話者がどの語形を使っているでしょうか(図・中)。結果から、若い人ほど「やっぱ」を用いており、10〜20代では約65% が「やっぱ」を用いていることが分かります。ただ世代が上がっても「やはり」の使用はほとんど見られず、70歳以上の方も「やっぱ」を約40%とかなり多く用いているようです。
『昭和話し言葉コーパス』のうち1952〜69年収録の会話と2016〜20年収録のCEJC を比べると、昭和中期から平成末〜令和初頭に至る約60年で「やっぱ」の使用が格段に広がり、「やはり」の日常場面での使用がほぼ見られなくなっていることが分かります。
話し言葉のコーパスの拡充により、話し言葉を様々な角度から調べることができるようになりました。今回取り上げたコーパスはいずれもオンライン検索システム「中納言」で調べることができます。
(小磯花絵/音声言語研究領域・教授)