Vol. 11 (2022年3月発行)
アクセント、イントネーション、リズムなど、語以上のレベルにおける音声特徴を「プロソディー」と言うが、中でも日本語のアクセントは方言差が大きく、類型的にも多様であることはよく知られている。しかしながら、従来の研究は日本語の中だけで論ずる傾向があり、いわゆる一般言語学の立場から日本語の諸変種を位置付けるとどうなるのか、そのような特徴を持つ日本語を研究することが一般言語学にどう貢献するのか、という視点は必ずしも十分ではなかった。
その視点を正面に据えて書かれたのが本書で、英語学から入り、日本語学、方言学(鹿児島方言)へと研究を広げてきた著者ならではのものである。諸言語・方言が扱われるが、母方言の鹿児島県薩摩川内市方言と対岸の甑島方言の調査資料が中心をなす。
総論的な第1章で対象とした8項目中、アクセントの実現領域は語か文節か、などの4項目に両特徴が共存する特異な類型(ハイブリッド型)が見られ、他の項目でも日本語は実に多様性に富むことが述べられる。文末下降調で実現する鹿児島方言の疑問・呼びかけのイントネーションや若年層におけるアクセント変化、甑島方言の方言差も興味深い。多くの人に読んでほしい本である。
▶上野善道(東京大学名誉教授)