ことばの波止場

Vol. 11 (2022年3月発行)

著書紹介 : 文系研究者になる―「研究する人生」を歩むためのガイドブック―

石黒圭
研究社、2021年10月

『文系研究者になる―「研究する人生」を歩むためのガイドブック―』
『文系研究者になる―「研究する人生」を歩むためのガイドブック―』書影

研究者を目指す人にとって、研究者になるには・なってからどういう仕事があるのかが分からないというのはかなり深刻な問題である。2000年代初頭には研究者向けの匿名掲示板があり、研究者(大学教員)なら分かる話題について赤裸々に書かれていた。だがあくまで匿名掲示板であり、信憑性や体系性に欠ける。そう、研究する人生を歩むにはあまりにも情報が不足しているのである。

本書は文系に焦点を当てて大学院に進学の決断から、学会発表、論文執筆、学位取得、研究職への就職、そして、就職後の授業・ゼミ運営での心構えや方法についてQ&A形式を用いつつ具体的に記されている。

本書が特に優れているのが、出産や介護、経済的問題による研究の中断やハラスメントの問題に触れていることである。著者はこれらの話題に対し、冷静に中庸な助言をしている。また、人間関係の作り方や囲い込み・放牧などといった指導教員のタイプごとの付き合い方など、他の人には聞きづらいことも丁寧に書かれている。本書はこれから研究者を目指す者にとって良きガイドとなることはもちろん、すでに研究者になった者にとっても自己を振り返るための本という意味で一読の価値があると信じる。

▶松浦年男(北星学園大学)