Vol. 12-1 (2022年10月公開)
「ニホンゴ探検」が人気だそうですね。
ミニ講義やワークショップなどを通じて子供たちにことばの不思議に触れてもらおう、というイベントです。2020年からはウェブ開催でじかに接することができないのが残念ですが、子供たちの反応がとてもいいんです。質問タイムには、たくさんの手が挙がります。
いつも使っていることばですが、多くの人はことばを意識していません。意識してみると、ことばには不思議がたくさん詰まっていると気付くでしょう。すると、なぜだろうと、理由や答えを知りたくなるでしょう。このようなイベントをきっかけにして多くの人に、ことばを意識して、ことばに興味を持ってもらいたいのです。付き添いの大人の方にも楽しんでいただいています。
田窪所長は、いつごろからことばに興味を持ったのですか。
中学生のころは建築家になろうと思っていたのですが、樺太アイヌ語の調査に行ったときのことが書かれた金田一京助の『北の人』という随筆を偶然読み、「未知のことばをフィールド調査で学ぶというのは、かっこいいな」と感じたことを覚えています。その気持ちはずっと頭の隅にありましたが、いろいろあって最近まではどちらかといえばことばの仕組みの研究をしていました。大学では最初、英語学の勉強をしようと思っていたのですが、なぜか英語より日本語について考える時間が長くなり、いつの間にかこの世界に。朝から晩まで、ことばのことばかり考えています。言語学者たちでカラオケに行くと、「これはどう発音するんだ?」「これはどこの方言だ?」と、歌うのを忘れて言語学談義になってしまいます。私はもう50年以上ことばの研究をしてきましたが、今でも不思議なこと、知らないことばかりです。
2017年10月に所長になられ、2022年4月からは第4期中期計画が始まりました。どのようなことを目指しているのでしょうか。
第3期では、言語のデータベースに研究情報を付けた言語コーパスの種類や内容を拡充し、公開してきました。研究データを公開し、オープンデータに基づいて研究を行うオープンサイエンスは、理学や工学では主流になっています。第4期では、フィールド調査や実験などのデータの公開を進めるとともに、人文学におけるオープンデータ、オープンサイエンスのやり方を私たちが示し、確立することを目指します。
最近では、増加する外国人労働者の日本語教育に加えて、その子供たちの日本語教育が問題になっています。家庭では両親の母語を使い、学校や社会では日本語に触れるという環境では、特別な日本語教育が必要です。日本語の習得過程を調査研究し、日本語教育の支援に生かすことも、第4期の大きな柱になっています。
ほかの国にも、日本の国語研のような研究機関はあるのでしょうか。
言語政策のための研究機関は、いろいろな国にあります。国語研も1948年に設立されたときは、共通語の普及など言語政策のための調査研究を行うことが任務でした。現在は、言語の基礎研究が中心です。言語の基礎研究を中心に行っている研究機関は、世界でも多くありません。そこで国語研の優れた研究成果を世界に発信すべきだと考え、英文刊行物の出版を進めてきました。新しい国際出版シリーズも始め、国際的な展開を加速させていきます。
言語学の研究をしたい人は、どのような進路を選べばいいのでしょうか。
言語学は文理融合の分野であり、数学やコンピュータサイエンスを学んでから入る道もあります。国語研では、2023年度から総合研究大学院大学に博士後期課程の日本語言語科学コースを設置する予定です。言語学以外を学んできた人も大歓迎です。コース設置の準備として、言語学の基礎を学ぶことができる動画教材「言語学レクチャーシリーズ」の試験版を制作し公開しているので、ことばに興味がある人は、ぜひご覧ください。
国語研のウェブサイトでは、「ニホンゴ探検」のミニ講義をはじめ一般向けの動画や資料も多数公開しています。皆さんも、ことばを意識してみませんか?