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2018.11.12 2018年11月12日 イベント報告

職業発見プログラム : 新潟県立長岡高等学校

10月12日(金)、新潟県立長岡高等学校2年の生徒さん20名が、国立国語研究所を訪れてくれました。

引率の先生からは事前に、以下のようなご希望をいただきました。

  • 高校生にとって人文学や言語学は「科学」とは遠いイメージにある
  • そこで、言語学も諸学問と同様に「科学的」であるということが実感できるような講義をしてほしい

「はにかむ」と「はずかしそうにする」の違い

今回、講義を担当したのは心理学を専門とする言語変化研究領域の横山詔一教授です。『「はにかむ」と「はずかしそうにする」の違い』をテーマに、心理学の知見に照らしながら「ことば」を分析していく過程を講義してもらいました。

横山詔一教授

「はにかむ」ということばの意味を他人(日本語学習者)に教えたいときにはどうしますか? 国語辞典で調べてみると、語釈には「はずかしそうにする」と載っています。

では、「はにかむ」と「はずかしそうにする」との違いはいったいどこにあるのでしょうか?

教室で講義を受ける生徒

「はずかしい」心理状態を表すことばを思いつくだけ書いてみると、いろんなことばがありますが…。これらのことばを説明しようとすると、いくら辞書を調べても判然としません。

気持ちや心理状態という目に見えないモノに関係することばの意味は、他人に納得してもらえる形で記述し、説明するのはきわめて難しいようです。

メモを取る男子生徒

日本語教育の教材開発で抽出された「はずかしい」気持ちになる場面を、心理学的な知見に照らして分析していきます。

公的自意識、私的自意識の図

公的自意識、私的自意識という心理学の専門用語がでてきました。

公的(public)自意識とは : 自己の服装や髪型、あるいは他者に対する言動など、他者から観察しうる自己の側面に注意を向ける程度のことです。公的自意識の強い人は、他人の目に映る自分の姿に心を配るなど、外的・対人的側面に注意を向ける傾向が強いことが分かっています。

私的(private)自意識とは : 自己の内面や感情・気分など、他者からは直接観察されない自己の側面に注意を向ける程度のことです。私的自意識の強い人は、ふと一歩離れた所から自分をながめてみることがあるとか、自分を反省してみることが多い等、自己の内面にある道徳や倫理の基準に注意を払う傾向が強いと言われています。

この公的自意識と私的自意識に関する知見は、自意識に関する質問紙調査の回答データを「主成分分析(因子分析)」という手法で解析した結果から導き出されたものです。主成分分析(PCA : Principal Component Analysis)は、深層学習(ディープラーニング)とも関係が深く、人工知能研究の教科書によく登場します。

日本語教育の場で抽出された「はずかしい」気持ちになる場面の分類と、心理学における自意識の二次元構造(公的自意識と私的自意識)とは、かなりきれいに重なることがわかりました。

高校生にとっては少しハイレベルな講義でしたが、長岡高等学校の生徒さんはみな集中して聞き、しっかりとメモを取っていました。

大学生は「はにかむ」と「はずかしそうにする」をどうとらえた?

「今日は、ある大学で行っている「心理言語学」という講義をそのままレベルを落とさずに、みなさんにお話ししました。」と断ってから、横山先生は同じ講義を聴いた大学生が書いたコメントを紹介してくれました。

心理言語学を選択している大学生は、「はにかむ」と「はずかしそうにする」をどのようにとらえたのでしょうか?

大学生による分析コメントがスライドに映っている

「大学生は訓練を受けているので、まず語源に当たります。講義中でもどんどんスマホで調べていきます。そして授業の最後に、紹介したようなコメントを5分~10分くらいで書いてくれます。」

大学で学ぶとはどういうことなのか、今後の進路を考える生徒さんたちにとっては、良い体験となったのではないでしょうか。

ことばと心理学の関係

「ことばの研究と心理学の研究は、非常に関連が深い。というのも、人はことばを通じて他人の心を知るからです。」

最後に、横山先生はことばと心理学について次のように語ってくれました。

心理学においては、1000年前のデータが存在しないので、昔の人の気持ちを実証的に調べることはできません。

けれども「ことば」についてみると、万葉集の時代から、その時代の人が思ったこと感じたことが、詩歌や文学作品という形となって残っています。国語研では歴史コーパスというデータベースを作り、公開しているので、誰でもこれを検索することができます。

庶民の歌も詠み人知らずとして残っているので、各時代、身分の隔てなくデータがあります。これは素晴らしいことです。ことばを調べることで、それぞれの時代に生きた人の「心」のありようを知ることができます。

※『日本語歴史コーパス』は、デジタル時代における日本語史研究の基礎資料として開発を進めているコーパスです。全てのテキストに読み・品詞などの形態論情報が付与されているため、従来の紙の総索引の代わりになるだけでなく、より高度な検索や集計が行えます。
『日本語歴史コーパス』は、オンライン検索ツール「中納言」(無償)を通してご利用いただけます。ご利用には利用許諾契約が必要です。詳しくは利用・申込方法をご覧ください。

質疑応答

質疑応答をする生徒

質疑応答では、横山先生より、統計学(データサイエンス)の知識が少しでもあると様々な研究に生かすことができること、最近は文系・理系の区別がなくなってきているのでバランスよく学ぶことが大切、というお話がありました。

長岡高等学校のみなさん、国語研での講義はいかがでしたか? この経験を生かして、将来、さまざまな分野の研究にチャレンジしてくださいね。