『ことば研究館』を訪れてくださるみなさまの中には、「ことばが消えていく」ことについて関心を持たれている方がいらっしゃるかもしれませんね。
11月24日(土)、マティダ市民劇場(沖縄県宮古島市)にて「危機的な状況にある言語・方言サミット」が開催されました。
「危機的な状況にある言語・方言」とは、ユネスコが平成21年に発行した “Atlas of the World’s Languages in Danger” で消滅の危機にあるとした8言語・方言(アイヌ語、八丈方言、奄美方言、国頭方言、沖縄方言、宮古方言、八重山方言、与那国方言)及び東日本大震災において危機的な状況が危惧される被災地の方言を指します。
※ なお、ユネスコはアイヌ語以外のことばも言語と呼んでおり、沖縄や八丈地方などで話されることばは、言語または方言どちらの呼び方も存在しています。
このサミットは、研究者と一般のみなさまが一緒になり、共に、文化の多様性を支えることばの役割や価値について考え、危機的な状況を改善するきっかけにしようと行われたものです。会場では、消滅の危機にある言語・方言の聞き比べや講演などが行われ、危機言語・方言に関する調査研究成果や各地域の取組事例についての発表がありました。
「危機的な状況にある言語・方言サミット」は、2014年から毎年、危機言語が話されている地域で開催されています。第1回目は八丈島で開催され、2回目は那覇市、3回目は与論島、4回目は札幌市と続き、今年で5回目。昨年よりも多くのみなさまにご来場いただき、少しずつ危機言語への意識が高まっていることを感じました。
国語研の木部先生からは、「危機的な状況にある言語・方言」の背景や危機の度合い、調査からみる各言語・方言の体力測定報告、継承の取り組み事例、問題点が報告されました。
北原先生からは、アイヌ民族の歴史やアイヌ語の特徴、ユネスコの判断基準からみたアイヌ語の使用状況とその課題、取り組み事例が報告されました。
ここでプログラムにはなかったゲストとして、北海道大学の佐々木先生と谷本先生が登場しました。先生からは、IOM図書室の未整理図書から見出したネフスキーによる宮古方言採取手帳の紹介があり、嬉しいことに、この貴重な資料を宮古島のみなさんに寄贈したいとの申し出がありました。思ってもみなかったサプライズに、会場では拍手が沸き起こりました。
田窪所長の講演は「ことばと生きる 宮古語とは」「ことばを残す 宮古語は残せるか」の2部構成となっていました。宮古のことばははたして「方言か言語か」、「昔の日本語なのか」という切り口から、宮古語は研究者だけでなくみんなにとって面白い、素晴らしく貴重なことばであるというお話となりました。そして、どうすれば宮古語が消滅の危機から逃れられるのかを、具体的な事例やエピソードを交えて伝えていくという、どなたにもわかりやすい講演でした。
じゃんけん童歌「お寺の和尚さん」や石川啄木の短歌3首を、それぞれのことばに訳して披露しました。
八戸方言の語りでは、南部昔コ「殿様どそばはっと」「からやぎの話」「鯨どぼさま」が披露され、来場者は表情豊かな昔話にどんどん引き込まれていったようでした。また、アイヌ語の語りでは、カムイユカラ(神謡)「リットゥンナ 雷神の怒り」が披露されました。シンプルで歌いやすいリズムに乗って輪唱が行われ、民謡のはやしことばのように繰り返し挿入されることばが耳に残りました。
高校生による、古典芸能 狂言『附子:ぶす』の宮古方言版が披露されました。
じゃんけん童歌「お寺の和尚さん」や石川啄木の短歌3首を、宮古各地(狩俣、荷川取、城辺、上野、下地、池間、伊良部、大神、多良間地域)の方言に訳して披露しました。
パネリストに、ノルウェーから南サーミ語話者の高校生、日本からアイヌ語話者の大学生、宮古方言話者の高校生を迎え、継承者の立場からそれぞれのことば・文化を意識したきっかけや、ことばを学ぶ中での変化、継承していくことに関してなど、様々なエピソードが話されました。
たくさんの人が方言に親しんでもらえる企画として、方言で書かれた美しい絵本が展示してありました。案内しているのは国語研の山田真寛 准教授です。
※本サミットは、「東京2020公認文化オリンピアード」および「beyond2020」の認証を受けています。
※危機言語・方言の関連事業として、11月25日(日)にマティダ市民劇場(宮古島市文化ホール)において、これまでの「鳴りとぅゆんみゃーく方言大会」の最優秀賞受賞者やゲストの参加を得て「方言大会チャンピオン大会」(宮古島市文化協会主催)が開催されました。
主催・共催
文化庁、沖縄県、宮古島市、宮古島市教育委員会、国立国語研究所、琉球大学、北海道大学アイヌ・先住民研究センター
後援
ノルウェー大使館、北海道、鹿児島県、八丈町、札幌市、公益財団法人アイヌ民族文化協会、沖縄県文化協会、沖縄タイムス、琉球新報、宮古毎日新聞社、宮古新報、エフエムみやこ、宮古テレビ、日本言語学会、日本方言研究会