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2018.09.07 2018年09月07日 イベント報告

職業発見プログラム : 明星学園中学、富山県立富山高等学校、宮城県宮城野高等学校

夏休みを利用して、3校の生徒さんが国立国語研究所の見学に訪れました。

明星学園中学(東京都三鷹市)

7月25日、明星学園中学の3年生 3名と引率の先生 1名がやってきました。こちらの中学は、毎年、国語研を訪問されています。

テーマA :「俗語について」

新野直哉准教授(言語変化研究領域)が対応しました。

新野直哉先生

生徒さんが「俗語」というテーマを選んだ理由は、「ことばの乱れがある」という新聞記事を読み、「俗語を使わない人はいるのだろうか」と疑問に思ったことがきっかけだそうです。俗語とはどのようなものか、今後どのように変化していくのか?を知りたいとのこと。

『俗語入門』を紹介する新野先生と明星学園中学の生徒さんと先生

新野先生が資料として用意したのは、米川明彦著『俗語入門』と、昭和50年(1975年)の中学生向け学習雑誌『中学二年コース』の記事でした。

40年以上前の雑誌記事にも、「日本語は乱れてる!」「こういう「乱れ」は以前からあったが最近それがひどすぎるようだ。」ということばが並び、記事を読んだ生徒さんからは思わず笑いがもれました。

『中二コース』の記事を読む生徒さん

新野先生からは「俗語とは日常のリラックスした場面で使うことば」との説明があり、「ことばは服と同じ。流行があるし、その繰り返しもある。仕事に行くときはスーツだが、家では下着1枚でも問題ない。人間に下品な部分がある以上、下品なことばがなくなることはあり得ないが、どう使うかはわきまえないといけない。」という説明には、生徒さんたちもうなずいていました。

テーマB : 方言について

先生(言語変異研究領域)が対応しました。

生徒さんがこのテーマを選んだのは、大阪から関東に引っ越した際に、大阪弁は「きつい・怖い」と言われたことがきっかけだそうです。

講義をする中澤先生

「「イモイ」「こすい」 など、若い人がほぼ使わなくなったことばは、いつ、どこで、どんなふうに使われなくなったのか?」「大阪弁と京都弁の違い」を聞きたいとのことでした。

中澤先生の講義は「方言とは何か」を理解してもらうことから始まりました。方言は万葉集の東歌の時代にも見られるが、それがそのまま東日本のことばになったわけではないなど、方言の複雑さを中学生にも理解しやすいことばで説明していきました。

中澤先生と明星学園中学のみなさん

また、「イモイ」「こすい」については、質問者の周りでは使わない方言だとしても、大阪の男性の間ではまだ使われているとのこと。

方言を研究するには、世代や地域、男女ごとに調査をする必要があること、「「イモイ」「こすい」が使われなくなった理由だけでも充分、研究テーマにできるくらいなんだよ」との先生のことばに、生徒さんは何度もうなずいていました。

たくさんの資料と、先生の軽快な口調に、「方言」をテーマとしなかった生徒さんも楽しんでいたのが印象的な講義でした。

富山県立富山高等学校(富山県富山市)

8月2日、富山県立富山高等学校の2年生 3名がやってきました。

テーマは『若者言葉の日英比較』。窪薗晴夫教授(理論・対照研究領域)が担当しました。

質問する生徒さんににこやかに対応する窪薗先生

当日、生徒さんたちはこれまでの調査結果をまとめたものを持ってきてくれました。

窪薗晴夫先生

若者言葉をどのように分類すれば良いか、若者言葉はどこから生まれて来るのかなど、調査の中で生じた疑問について、窪薗先生がアドバイスをします。

「仮説を立てて、それをどのような方法で検証するかが、研究者の腕の見せ所」と、窪薗先生。生徒さんたちは今後、ポスターセッションで探究活動の成果を発表する機会があるそうです。

今回のプログラムが、少しでもお役に立てればとても嬉しいです。

宮城県宮城野高等学校(宮城県仙台市)

8月3日、宮城県宮城野高等学校の2年生 4名が国語研にやってきました。

宮城野高校では総合学習の課題研究の一環として、企業・研究所などの訪問学習を実施しているとのこと。今回は言語分野に関心ある生徒さんの質問に、新野直哉准教授(言語変化研究領域)が対応しました。

生徒さんの質問に答える新野先生

テーマは、辞書の掲載語に新しい語釈(意味)が加えられる基準について。広辞苑の第六版と第七版を比較した経験から、 “誤用” とされていることばの用法を分類することで、今後、辞書に加わる語釈を予想できるのではないかと考えたようです。

新野先生からは、さまざまな事例の紹介とともに、以下のような話がありました。

「多くの人が間違いと思ったものが社会的な “誤用” である。」

「辞書の掲載基準は辞書ごとに違う。時間が経つにつれ、単語は最初の意味に多くの意味が付け加わっていく。だがそれは “誤用” と呼ばれるようなものだけとは限らない。例えば、パソコンの「マウス」、ネットの「掲示板」や「炎上」のように元の意味から転じた意味が “誤用” とは言われないものも多くある。」

資料を見ながら質問をする宮城野高等学校の生徒さん

詳しい話を聞くうちに、生徒さんからは「今後、どのように研究内容をまとめていけばいいのか」という質問が出てきました。

先生からは、「広辞苑の第五版と第六版で、どういうことばが新たに加わったかを見ていくのはどうか。新聞記事のデータベースを見ると、新規に掲載されたことばが記事になっている。そのことばがその後、どのように日本に定着したのかを見ていくのもよい。」という提案がありました。

予定の時間を過ぎた後も、生徒さんからは熱心な質問が続きました。

説明をする図書館職員の胡内さん

その後、4名は国語研の研究図書館を訪れ、担当職員から説明を受けました。

広辞苑を手に意見を交わす生徒さん

説明が終わっても、生徒さんは国語辞典の書架前に留まり、研究テーマについてさらに検討を重ねていた様子でした。

宮城県宮城野高等学校のみなさん、国語研はいかがでしたでしょうか。研究がうまくまとまるよう、応援しています。

『職業発見プログラム』では、見学や研究者による講義だけではなく、なぜ研究者という道を選んだのかもお話しいたします。研究者自身が現在に至るまでの実体験をお話しするので、生徒の皆さんが進路を考える上での参考になると、非常に好評です。詳細につきましては、下記のリンク先をご覧ください。

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