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2022.09.28 2022年09月28日 イベント報告

職業発見プログラム : 新潟県立国際情報高等学校

7月29日(金)、新潟県立国際情報高等学校の生徒さんたち19名が、国立国語研究所にいらっしゃいました。先生からは見学申込の際に、以下のようなご希望をいただきました。

「本校では国語だけでなく英語にも興味を持っている生徒が多いため、他の言語と日本語の違いというテーマを希望します。」

このご希望に応じて、今回の講義は、社会言語学を専門とする、朝日祥之准教授が対応しました。朝日准教授の最近の研究テーマは日本人の移民社会における言語接触です。講義は「日本語を知る・日本語を使う人々を知る」というタイトルで、研究者になったきっかけの話から始まり、日本語と外国語の比較をテーマに、ユーモアを交えながら1時間にわたって行われました。

講演する朝日祥之准教授

毎日使っている日本語にアンテナを立てる

朝日准教授は、音声、意味、構文、語用という色々な角度から、講義を展開しました。

まず音声に関して、スペイン語と英語を取り上げて説明しました。例えば、スペイン語の母音は日本語の母音と類似していることや、日本語と英語の「回文(さかさ言葉)」の例を挙げて紹介しました。

日本語 :
トマト
しんぶんし(新聞紙)
たいやきやいた(たい焼き焼いた)
たしかにかした(確かに貸した)
ダンスがすんだ(ダンスが済んだ)

英語 :
Go, dog
No lemon, no melon
A Santa at Nasa
No, it never propagates if I set a gap or prevention

以上の例文を録音して文末から逆再生した場合、英語の場合は文頭から再生した場合とおおよそ同じように聞こえるのに対して、日本語の場合はほぼ理解不能になってしまいます。回文を例にすることで、日本語と英語の音声的な特徴の相違に気づくことができます。

ことばを使う人の凄さに気づく

日本語で自分を指すことばにはどのようなバリエーションがあるのでしょうか? 朝日准教授は、日本語に存在する多様な一人称代名詞、「私」、「ワタシ」、「アタシ」のバリエーションをあげ、われわれは普段意識こそしないものの、多様なバリエーションを、「いつ、どこで、誰に対して、そしてどのように」と明確に使い分けていること自体が、とても不思議なことであると生徒のみなさんに提示しました。

ほかにも、「ら抜きことばの限界点」、「鼻濁音」、「1万円を貸してください/100円貸して」(依頼表現)、「マイナス待遇表現」などのトピックを取り上げ、これらの現象を通して、ことばをめぐって考える際に、ことば同士の規則だけではなく、「いつ、どこで、誰に対して、そしてどのように」ということばの外部の要因にも目を向ける必要があると説明しました。

最後に、朝日准教授は、日本から世界にわたった人々と彼らの生活をトピックをあげて説明しました。さらに、”sukoshi bit”(少し)、”hottsui”(暑い)などの「ハワイの日本語」の具体例を挙げ、英語と日本語の接触によって形成した一見「不思議なことば」を生徒のみなさんに提示しました。

結びとして、朝日准教授は、外国語を通して母語である日本語の面白さを再発見できることを説明し、ことばに注目することは、人間そのもの、そしてやがて自分自身のことをより深く理解することのきっかけとなることを説明しました。

言語は人が使うもの。日本語も英語もスペイン語もハワイ語もポルトガル語も人間が使っている言語

紆余曲折しながらもたどり着く

講義の最後に、朝日准教授は、国語が好きでなく、英語が好きな自分が、紆余曲折の果てに国語に携わる仕事に就いたと自分の経歴を説明し、紆余曲折を経ることを恐れないように生徒のみなさんを励ましました。

当日の会場の様子