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2019.12.11 2019年12月11日 イベント案内

『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展 レポート(3)

現在、国立歴史民俗博物館で行われている『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』展、レポートの第三弾はハワイの日本語学校を中心にご紹介していきます。

本展では、ハワイ大学マノア校ハミルトン図書館を始めとする多くの図書館・資料館から貴重な資料をお借りしています。普段は各館に分散保管されている日本関連の資料が、このような形で一堂に揃い、展示されるのはめったにない機会だそうです。

モニカ・ゴーシュ ハワイ大学マノワ校 ハミルトン図書館長 コメント

モニカ・ゴーシュハミルトン図書館長

このような非常に歴史的な価値がある資料を、日本に持ちこみ日本のみなさんに見ていただくことに、大きな価値があると思います。
日本のことばと文化を、どのようにハワイ移民のこども達に教育したのかがよくわかる資料となっています。非常に嬉しく価値のあることだと思っています。

ハワイのこどもたちに日本語の教育を

展示 : ハワイの日本語教育のはじまり

こどもの教育問題はいつの時代でも社会の大きな関心事ですが、ハワイの日系人社会ではどうだったのでしょうか。初期の日本人移民のこどもたちは、一部で寺子屋式の講習はあったものの、ほとんど教育を受ける機会がありませんでした。こどもたちは日本語・英語・ハワイ語が混在する形で発話し、日本語での読み書きが十分にできない状況だったそうです。そこで1890年代から、日本語教育を行う日本語学校が創設されていきます。

アメリカ合衆国の公教育と日本語教育

1898年、アメリカ合衆国がハワイを併合したことにより、こどもたちはハワイの公立学校へ通うようになります。それにより日本語学校は放課後に日本語や日本文化などを教育する形に変わっていきました。仕事で忙しい両親にかわってこどもの面倒を見る現在の学童保育と似た役割もあったようです。日本から来た教師が習字、作文、修身などの日本の小学校と同じ科目を教えていました。

教科書の比較展示:
(上)1910年から日本の小学校で使われた尋常小学校読本 巻一 文部省
(下)日本語読本 巻一 尋常科用 布哇教育会

ハワイ展ではもちろん、日本語学校で実際に使われた教科書やプリントをご覧いただけます。当初使われていた日本の国定教科書とハワイオリジナルの日本語読本を比較するだけで、当時の日系人社会にどのような変化が起こったのかを想像していただけるのではないでしょうか。朝日先生によると、教科書には今の感覚では載せられないようなおかしな例文も掲載されているそうなので、こちらはぜひギャラリートークで質問してみてください。

バゼル登紀子さん(ハワイ大学マノワ校ハミルトン図書館 アジア資料担当)インタビュー

ハワイ大学のハミルトン図書館には、高田智和 准教授(国立国語研究所)をはじめとする研究者が調査に向かい、多大な協力をいただきました。同館で資料を管理されているバゼル登紀子さんに、今回の研究調査に関わって一番印象に残ったことを聞いてみました。

ハワイ大学マノワ校図書館 バゼル登紀子さん

私はいつも資料を管理する側から資料を見ているわけですが、高田先生をはじめとする研究者のみなさんがいらして初めて研究者がどこに目を向けているのかを教わったんです。

例えば、古い教科書の中にはさまれた、私たちにしてみれば「はさまれたもの」としか見えないものや、古い資料の中にある日本語にローマ字でフリガナがふってあり、私たちには「わー、おもしろい。ローマ字でフリガナふっているんだ。」としか見えていなかったもの、それらに実は非常に深い意味があることを教えていただきました。そのことにものすごく感謝しています。専門家の資料の見方と、私たちのように資料自体を管理する者の見方ではやはり違うんですね。それがすごく印象に残っており、今回の展示で学んだことです。

『日本語読本 巻五』 布哇教育会編 1937年 ハワイ大学マノワ校図書館蔵

教科書の書き込みなどからわかること

展示されている教科書『日本語読本 巻五 』をよく見てみると、バゼル登紀子さんがおっしゃっていたような「漢字やカタカナにローマ字で読みかたが書き込まれている例」が見つかります。書き込みをした者の母語が日本語ではなく、英語であったことがわかるそうです。さらに、写真には写っていませんが、同コーナーにある漢字のワークシートにもご注目ください。こちらもハワイ大学マノワ校図書館が所蔵する資料のひとつですが、『日本語読本 巻四』(1938年)に「はさまれていたもの」だそうです。日本語学習者にとって、漢字の習得は現代でも困難をともなうものですが、当時のこどもたちも苦心しながら漢字を覚えていたのでしょう。この資料から、ハワイの日本語教育でも漢字の読み書きが重視されていたことがわかるとのことです。

規制をめぐって分裂する日系人社会

1921年、126校に増加していた日本語学校に転機が訪れます。日本語学校での教育が日系人の児童・生徒のアメリカ化を阻害しているのではないかとの見方が出てきたのです。外国語学校取締法が制定され、外国語の授業時間の制限や教科書編纂などに関する法令や規則が追加されました。この法案をめぐって、日系人コミュニティは分裂します。ハワイの日本語新聞『布哇報知』を中心とするグループは裁判により同法の違憲判決を勝ち取ることを目指し、『日布時事』を中心とするグループは協調的立場を取りました。現代にも通ずる社会問題です。

ハワイで発行された日本語新聞の展示

結果がどうなったのかは、当時発行された日本語新聞が展示してありますので、ぜひ展示会場で確認してみてください。移民、教育、多文化共生、アイデンティティ、労働問題など、現代に生きる私たちになじみ深いテーマが満載なのも、このハワイ展の魅力のひとつです。

『ハワイ : 日本人移民の150年と憧れの島のなりたち』開催概要

期間 2019年10月29日(火)~ 12月26日(木)
場所 国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117 (交通アクセス
料金 一般 : 1000(800)円/大学生 : 500(400)円
小・中学生、高校生 : 無料/( )内は20名以上の団体
※総合展示もあわせてご覧になれます。
※高校生及び大学生の方は、学生証等を提示してください。
(専門学校生など高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳提示により、介護者と共に入館が無料です。
※博物館の半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間 9時30分~16時30分(入館は16時00分まで)
※開館日・開館時間を変更する場合があります。
休館日 月曜日(休日の場合は翌日が休館日となります)
主催 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館、国立国語研究所
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館
協力 ハワイ大学マノア校図書館、Hawaii Times Photo Archives Foundation、ハワイプランテーションビレッジ、ビショップミュージアム、スタンフォード大学フーヴァー研究所 ライブラリ&アーカイブス ジャパニーズ・ディアスポラ・コレクション、JICA横浜 海外移住資料館、天理大学附属天理参考館、東京大学史料編纂所、日本ハワイ移民資料館(山口県周防大島町)
後援 ハワイ州観光局
協賛 UCC上島珈琲株式会社
お問い合わせ 展示の詳細につきましては下記のサイトをご覧ください。