国語研の窓

第2号(2000年1月1日発行)

研究プロジェクト紹介:現代雑誌200万字言語調査

相澤 正夫(言語体系研究部長)

21世紀を目前にして、わたしたちをとりまく世界は激しく動いています。日本語やそれを使って営まれる日常の言語生活も例外ではありません。おそらく誰もがことばが変わりつつあるなと実感しているはずですが、どこがどう変わっているのかと改めて問われると、すぐには答えられないのではないでしょうか。

マスメディアや印刷技術の発達のおかげで、大量の情報が毎日休むことなく届けられています。ずいぶん便利な世の中になりました…、と書くといいことばかりのようですが、実際はそうとばかりも言ってはいられません。ことばが洪水のように押し寄せて、溺れてしまいそうだよという本音も聞こえてきそうです。

国立国語研究所では、これまでも新聞や雑誌、テレビ放送などマスメディアによって流されることばの調査を精力的に行ってきました。どれをとっても広い範囲にわたって強い影響力をもつ発信源ばかりです。日本語は一体どうなっているのかと考えるときに、これらのメディアで実際に使われていることばは、絶対に対象から外すわけにはいきません。

今回の「現代雑誌200万字言語調査」プロジェクトも、国立国語研究所の仕事としては、このような流れの中に位置付けられる企画です。雑誌というメディアを選んだことには、大きく三つの理由があります。

一つ目は、言うまでもなく、現代日本語の書きことばの実態を正確に捉えるということです。国立国語研究所は1956年に「雑誌90種調査」を実施していますが、その後の社会情勢の激しい変化を考えると、すでに情報が古くなっていることは明らかです。まず、情報の更新が必要だと考えました。

二つ目は、雑誌というメディアが、新聞と比べて多様な日本語を反映していると予想されることです。広範囲のメディアとしては新聞に軍配があがりますが、ことば遣いや表記についての統制も強いようです。ここでは、書きことばの多様性を捉(とら)える道を選びました。

三つ目は、前回1956年の調査と今回の調査結果の比較を通して、20世紀後半における日本語の文字、語彙、文法の変化の模様が具体的に明らかにされることです。これによって、21世紀に向けて日本語の将来に一つの見通しが得られるものと考えました。

国立国語研究所では、1994年の1年間に大量の月刊雑誌を計画的に買い込んで、調査の準備を整えました。(実は本屋に注文しておけば必ず手に入る…というほど甘い話ではなかったのですが。)もちろん全部を調査対象とすることは不可能です。まず、約70種を分野の偏りがないようにバランスよく選び、そこからさらにサンプルを採るという方法で基礎データを作りました。現在、データの電子媒体化が終わり、集計の準備に入ったところです。

「200万字」というのは、実はこの基礎データの総文字数です。これは、新書判で約25冊分に相当する分量です。この宝の山を今後数年のうちに集計し分析して、21世紀の初頭には何とか成果の公表に漕(こ)ぎ着けたいと、チーム一同仕事に精を出しています。

1956年と1994年の雑誌資料

1956年と1994年の雑誌資料

1956年と1994年の雑誌です。紙面の大きさ、写真の使い方、縦書き・横書き、文字の大きさ・色使い・書体、漢字の種類や形、振り仮名の付け方、カタカナの比率など、大きく変化しています。

漢字(メン・麺)の具体例
漢字(メン・麺)の具体例

「麺」という字の出現度数は、1956年のゼロに対して、1994年は20回以上です。話題の変化もありますが、かつて仮名表記にされたものが再び漢字表記になってきた例です。字体も左側の「にょう」の部分に、「麥」のほかに現代風の「麦」が使われています。

  現代雑誌200万字言語調査語彙表 公開版:http://www.ninjal.ac.jp/archives/goityosa/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。