国語研の窓

第3号(2000年4月1日発行)

連載:国立国語研究所の紹介(3)

調査研究の成果がもたらしたもの

国立国語研究所長 甲斐 睦朗

0 はじめに

正門の桜並木が国立国語研究所の平成12年度の始まりを祝福するようにやわらかな花を咲かせています。

国立国語研究所は、来春の4月には独立行政法人制度による研究機関に移行するということで、私どもは、これまでの国立国語研究所の業務を継承しつつ、新しい目的・計画をもつ国立国語研究所として新生させようとしています。

そこで、国立国語研究所が、これまでに国語の研究や国民の言語生活の向上等の課題に関してどういう役割を果たしてきたかについて、既刊の報告書を紹介しながら記してみようと思います。今回は、3冊の報告書を取り上げることにします。

1 『現代雑誌九十種の用語用字』全3冊 昭和37~39年刊

国立国語研究所は、創立以来、共同研究体制で大規模な調査研究に取り組んできました。この文献は、書名に示されるように90種の現代雑誌の用語・用字を6名の研究員が共同で調査したものです。

この調査の成果は、刊行されて40年近く経った今でも学術研究・出版産業を中心に様々な領域に活用されています。例えば、20以上の度数をもつ見出し3,000語が、国語辞典の見出しの重要語の選定の資料に使われたりしているわけです。

なお、平成11年度から進めている「現代雑誌200万字言語調査」は、この調査を受け継いだものです。2つの調査を比較することのよって、外来語の増加や専門用語の消長など、20世紀後半の雑誌用語の変遷を明らかにしようとしています。

『現代雑誌九十種の用語用字』全3冊 昭和37~39年刊

2 『日本言語地図』全6巻 昭和41~49年刊

この文献は、日本全体から2,400地点を選んで、基礎的な語285について、各地点でどのような言い方になっているかを調査し、全部で300枚の地図にまとめたものです。例えば「大きい」意味を表す語としては「おおきい」はもちろん、「でかい・どえらい・いかい」などの数多くの言い方が、優劣をつけないかたちで北海道から沖縄まで平等に記載されています。この調査研究は、現代の共通語がどのようにして成立したのか、各地の方言はどのようにして今の姿になったのか、ということの一端を明らかにしました。また、共通語と方言という二者択一的な優劣を決める見方でなく、日本語を地理的な広がりの中で有機的にとらえる見方を推進しました。

『日本言語地図』全6巻 昭和41~49年刊

3 『児童の作文使用語彙』 平成元年刊

この文献は、地域文集に掲載された2,340編の小学生の作文の用語を調査し、20,000語余りの見出し語に整理しています。学年ごとの統計や度数順の調査を行ったことで、児童がどういう言葉を使用しているかが分かります。国立国語研究所は幼児及び児童生徒の語彙や漢字などの習得の問題を言語発達の観点からとらえる調査研究を続けていて、漢字の学年配当やその改定の作業などの基礎資料として提出しています。

『児童の作文使用語彙』 平成元年刊

これらの文献は、国立国語研究所、国立国会図書館、主な公立図書館などで見ることができます。

国立国語研究所は、これからも、大学の研究室などでは取り組めない大規模な基礎研究、また年月をかけてじっくり取り組まなければならない調査研究に立ち向かう所存です。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。