国語研の窓

第3号(2000年4月1日発行)

研究成果の紹介:新プロ「日本語」日本語観国際センサスの実施

新プログラム「国際社会における日本語についての総合的研究」日本語観国際センサスの実施

言語教育研究部長 米田 正人

国際交流基金の調査によると、日本語学習者の数は優に200万人を越えています。外国へ旅行した時に、色々な場面で日本語を見聞きした経験をお持ちの方が大勢いらっしゃるのではないでしょうか。日本人の目から見ると、以前に比べて日本語が国際社会での地位を得つつあるように思われます。その日本語について、諸外国の人たちはどのように見ているのでしょうか。これまで、その疑問に対する客観的な回答は見当たりませんでした。

そこで私たち国立国語研究所が中心となって、「日本語観国際センサス」という国際比較調査を実施しました。この調査は1997年1月から1998年2月(日本は1998年7月)に、世界28の国と地域に住む15~69歳の男女に対して行いました(2号に地図を掲載しています)。調査項目は、日本語や日本語学習に関する項目を始めとして、母語や英語に関する項目、さらには日本人や日本に関する項目など多岐に渡っていますが、日本語が世界の人たちからどのように見られているのかを明らかにすることがこの調査の中心テーマとなっています。今回は「今後世界のコミュニケーションで必要となる言語」と「英語優位に対する意識」について、アジア・オセアニアの結果を中心に見ることにしましょう。

今後世界のコミュニケーションで必要となる言語

質問は、「今後世界のコミュニケーションで何語が必要になると思いますか。母語も含めてすべてお答えください。」というものでした。選択肢を準備するのではなく自由にいくつでも答えることが出来る複数回答形式になっています。早速結果を見ることにしましょう。

ほとんどの国で「英語」という回答が断然トップの地位を得ています。英語が公用語である国を除くと、第2位にその国の言語があげられるケースが多く見受けられます。しかしパーセントは各国まちまちで、中国では「中国語」と回答する人が100人中65人いたのに対して、タイや日本では「タイ語」「日本語」がそれぞれ20人程度となっています。どこの国でも自分たちが普段使っていることばが今後世界でも必要な言語となると回答しているわけで、そうなって欲しいという願望が含まれた意見とも考えられます。
※「中国語」について補足説明をしておきます。中国調査の場合、「中国語」と回答した人も大勢いましたが、なかには「北京語」とか「上海語」、「客家語」というように回答する人も大勢いました。上の「中国語」はそれらをすべてまとめて集計したものです。

さて「日本語」について見てみましょう。多くの国で第3位にあらわれるケースが目立ちます。特記すべきはオーストラリアと韓国で、前者では50%が、また後者でも43%の人たちが、「日本語が今後世界のコミュニケーションで必要となる」と考えています。

このように、オーストラリアやアジアの国々、特に東アジア諸国では日本語に対する意識が大変高いのですが、ヨーロッパの国々では傾向が異なります。ほとんどの国で上位5位までに日本語があらわれてこないという結果になっています。かろうじて第5位にあらわれたのが、トルコ(11%)、イギリス(10%)、ロシア(7%)の三か国でした。

ちなみにアメリカでは、日本語は第3位、23%でした。ヨーロッパの国々はもちろんアジアの国々と比べてみてもとても高い比率になっています。

この結果を見ると、程度の差こそありますが、日本語の必要性を感じている国がずいぶんあるということがわかります。皆さんはどのような感想をお持ちになりますか。

表1 今後世界のコミュニケーションで必要となる言語(複数回答可)
表1 今後世界のコミュニケーションで必要となる言語(複数回答可)
[注] 数値はパーセントを表す。

英語優位に対する意識

先の質問で今後必要となる言語として「英語」がずば抜けた比率を示していました。一方現状でも英語優位という認識は世界共通と言うことが出来ます。次に英語優位という現状認識に対して「そう思う」と回答した人たちについて、英語優位に対する意識を見てみることにしましょう。この質問に対する選択肢は以下のようなものでした。

  1. 英語が優位なことはよいことだ
  2. 英語が優位なことはよいと思わないが、仕方がない
  3. 英語が優位なことはよいと思わない。もっと他のことばが使われるべきだ

英語を公用語、あるいは日常の生活で使用している国々では、「1.よいことだ」という意見が大多数を占めています。逆に、ブラジル、アルゼンチン、フランス、スペインなどのラテン諸国では、「3.他のことばが使われるべきだ」という英語優位を是としない意見の比率が高くなっています。アジアに目を向けると、日本や韓国などは「2.よいとは思わないが仕方がない」という中間的回答が多く見受けらます。中国・台湾は、「1.よいことだ」が60%前後、「2.よいとは思わないが仕方がない」が30%前後と、フィリピンなどと同じように、日本、韓国とラテン諸国との中間的位置にあります。

表2 世界で英語が優位であることに対する賛否・意見
表2 世界で英語が優位であることに対する賛否・意見

  国際社会における日本語についての総合的研究:http://www2.ninjal.ac.jp/jalic/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。