国語研の窓

第4号(2000年7月1日発行)

調査紹介:「白書、広報紙等における外来語の実態」について

外来語調査担当グループ 山崎 誠(言語体系研究部第1研究室)

日常生活の様々な場面で外来語(しばしば「カタカナ語」とも呼ばれます)に接する機会が増えています。外来語は、日本語の語彙を増やし、表現の幅を広げるのに役立っていますが、一方で、意味がわかりにくいために内容がよく伝わらないという問題点を持っています。

国立国語研究所では、文化庁の依頼を受け、公的な役割をもつ白書、また、多くの人が接する広報紙や新聞等を対象にして、外来語がどのように使われているかを調査しました。その結果を『白書、広報紙等における外来語の実態』として報告にまとめました。調査結果のうちいくつかを選んでここに紹介します。

白書の外来語

白書における外来語の主な使用分野は、(1)外国や国際間の事物(例:サミット、アジェンダ21)、(2)専門用語(例:バイオレメディエーション)、(3)政策名や施設名等の愛称(例:エンゼルプラン、ファミリーサポートセンター)などです。また、「消費者ニーズ」「エコライフの推進」「フォローアップする」のように、専門用語以外でも日常的に使われている例がありました。

なお、各資料における使用頻度の高い片仮名表記語については表1を参照してください。

表1 使用頻度の高い片仮名表記語(上位20語)

白書 広報紙 新聞
順位 順位 順位
1 サービス(905) 1 センター(10499) 1 メートル(1534)
2 システム(801) 2 サービス(2296) 2 キロ(888)
3 シェア(590) 3 スポーツ(1795) 3 ドル(774)
4 エネルギー(560) 4 コーナー(1310) 4 リーグ(772)
5 リサイクル(370) 5 コース(1244) 5 チーム(704)
6 センター(335) 6 ボランティア(1206) 6 テレビ(687)
7 ネットワーク(333) 7 ページ(1195) 7 グループ(677)
8 ガス(332) 8 バス(1191) 8 プロ(505)
9 コスト(291) 9 テーマ(1126) 9 メダル(494)
10 ベース(279) 10 チーム(1094) 10 システム(410)
11 ダム(212) 11 ホール(933) 11 センター(403)
12 ニーズ(208) 12 クラブ(865) 12 ユーロ(337)
13 メカニズム(197) 13 イベント(784) 13 メーカー(331)
14 モデル(179) 14 リサイクル(751) 14 サッカー(319)
15 データ(160) 15 メートル(685) 15 サービス(314)
16 トン(158) 16 グループ(664) 16 スタート(301)
16 レベル(158) 17 ホーム(643) 17 センチ(299)
18 プロジェクト(154) 18 プール(629) 18 テーマ(295)
19 オゾン(148) 19 パーセント(532) 18 トップ(295)
19 グローバル(148) 20 テレビ(508) 20 ミサイル(286)

※( )内は使用頻度

広報紙の外来語

広報紙でもっとも多く使用されていた外来語は「センター」で、単独で使われたもの以外におよそ50種類近くの「~センター」という複合語が見られました(表2参照)。これに関連して、公共的な施設の名前に見られる外来語として、「ハローワーク」「コミュニティプラザ」「バスターミナル」「クリーンステーション」などがありました。

また、高齢者を対象とした福祉用語や医療関係の用語、地域の行事や催し物の名前にも外来語が見受けられました。福祉用語では、「デイケア」「デイケアサービス」「デイサービス」「デイホーム」など似たような内容で意味の違いが分かりにくいものがありました。

表2 広報紙における「~センター」

運転免許センター エネルギーセンター 介護支援センター 解放センター
学校給食センター カルチャーセンター 環境改善センター 勤労者体育センター
勤労婦人センター クリーンセンター ケアセンター 研修センター
交流センター コミュニティーセンター 雇用促進センター サービスセンター
サイクルセンター 市民センター 社会教育センター 生涯学習センター
消費者センター 職業訓練センター 女性センター ショッピングセンター
森林学習センター 水質管理センター スケートセンター スポーツセンター
生活情報センター 青少年センター 清掃センター 赤十字血液センター
総合健診センター デイサービスセンター 都市緑化センター トレーニングセンター
ネイチャーセンター ネットワークセンター 農業指導センター ハートセンター
福祉センター 文化センター 保健センター ボランティアセンター
夜間急病センター リサイクルセンター リハビリテーションセンター 老人福祉センター

ローマ字の使用

白書で使われているローマ字表記の語のうち、約3分の2は、「APEC(アジア太平洋経済協力閣僚会議)」「ODA(政府開発援助)」のような英語の略語でした(表3参照)。略語は、日本語による説明がないと意味が分かりにくいものですが、「EU」「ASEAN」のように日本語の説明なしで使われるものもありました。

表3 使用頻度の高いローマ字表記語(上位10語)

白書 広報紙 新聞
順位 順位 順位
1 C(311) 1 A(1607) 1 A(468)
2 EU(180) 2 m(1437) 2 J(295)
3 ha(156) 3 FAX(859) 3 W(268)
4 ASEAN(152) 4 No(690) 4 JR(242)
5 WTO(130) 5 Q(487) 5 EU(234)
6 km(113) 6 km(403) 6 B(213)
7 OECD(111) 7 JA(390) 7 AP(203)
8 GDP(97) 8 g(327) 8 ASEAN(167)
9 m(91) 9 cm(303) 9 V(132)
10 ISO(84) 10 PM(266) 10 NTT(125)

※( )内は使用頻度
頻度の高いローマ字表記語には、略語や単位が多い。

わかりにくいカタカナ複合語

個々の外来語の意味は分かっても、それらが複合した場合、「ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム」のように理解しにくいものがあります。また、国際的な事業や企業、CD・映画の題名などが日本語に訳されずに、原語(英語)をカタカナに変えただけで表記されると、見た目にも長い複合語になります。

一般的に、ことばを使う際には、情報伝達が円滑にできるような配慮が必要です。大勢の人に向かって話したり書いたりするときには、難しそうなことばを言い換えたり、分かりやすく説明を加えたりして、伝えたい内容が正しく受け止められるようにすることが大切になります。外来語の問題もこの立場を基本に考えていくことが重要です。

  「外来語」言い換え提案:http://www.ninjal.ac.jp/gairaigo/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。