国語研の窓

第4号(2000年7月1日発行)

研究成果の紹介:新プロ「日本語」日本語観国際センサスの実施

新プログラム「国際社会における日本語についての総合的研究」日本語観国際センサスの実施

言語教育研究部長 米田 正人

日本を除く世界27の国と地域について日本語学習に関する項目を概観してみましょう。

「あなたは日本語を習ったことがありますか。あるいは、現在習っていますか。」

日本語について「学習経験がある」と答えた人の割合が多い順に並べてみると図1のようになります。韓国で半数近くの人が日本語学習の経験を持つのを筆頭に、上位5位までが10%を超えるという結果になりました。アジア、オセアニアの国と地域、そしてアメリカが上位を占め、残りの16か国では日本語の学習経験者の割合が高々1.7%になっています。特に経験者の割合が多かった韓国と台湾について、年齢別にみてみると、韓国では60代の80%、台湾では60代後半の50%が高い割合になっています。両国における戦争時の日本語教育の影響が高率の原因であることは無視できないと思います。

図1 日本語学習の経験

表1は日本語学習経験者がどこで、どのように日本語を学んだのかを示しています。学校で習うケースが多いようですが、独学で学んだり個人的に人から教わるケースも多くみられます。どのような学校で学んだのかをみると、韓国、オーストラリア、中国、インドネシアでは中学・高校・大学など義務教育ないしはその延長上で学ぶ率が高く、台湾やシンガポールではそれらの学校に加えて外国語学校(語学学校)で学ぶ率も高くなっています。フィリピンやアメリカでは個人的に教わる人の割合が多く見うけられます。

表1 日本語をどこで、どのように学んだか

学校で 職場で 個人的に 独学で その他 人数
韓国 81.6 9.2 15.3 20.6 1.0 490
台湾 66.5 9.3 22.8 18.9 1.2 334
フィリピン 20.6 18.1 62.5 33.8 0.6 160
シンガポール 51.7 30.2 19.8 14.7 0.9 116
オーストラリア 69.9 10.6 25.7 8.0 3.5 113
インドネシア 57.7 20.5 19.2 12.8 78
中国 69.9 11.7 21.8 42.7 2.4 206
モンゴル 41.5 20.8 41.5 43.4 5.7 53
アメリカ 35.6 22.2 53.3 24.4 11.1 45
タイ 47.4 13.2 26.3 34.2 38
ベトナム 48.5 18.2 30.3 27.3 33

「あなたは今後、日本語を習いたいと思いますか。あるいは習い続けたいと思いますか。」

「非常に習いたい」と「まあ習いたい」をあわせた割合の順に並べると、表2のようになります。全体的にみると学習経験の割合に比べて習いたい人の率が大幅に高くなっているのがわかります。特に、ブラジル、トルコ、ナイジェリア、エジプトなどでは、習いたい人の率が30%を越え、学習意欲を持つ人の割合の高さが目に付きます。一方、ヨーロッパの国々では、一番率の高いフランスでも19.3%と、相対的には日本語学習経験と同様に、日本語学習に意欲を持つ人の割合も低くなっています。

表2 日本語を習いたいと思う人の割合(%)

フィリピン 58.1 中国 31.9 イギリス 16.9
韓国 49.4 エジプト 30.9 アルゼンチン 16.8
台湾 49.0 シンガポール 29.3 イタリア 15.1
ブラジル 45.6 アメリカ 28.5 スペイン 13.8
トルコ 41.2 インドネシア 27.1 ポルトガル 13.0
ナイジェリア 36.9 ベトナム 26.9 オランダ 10.2
モンゴル 36.1 イスラエル 21.1 ドイツ 9.7
オーストラリア 35.3 インド 20.6 ハンガリー 8.1
タイ 34.6 フランス 19.3 ロシア 6.3

次に日本語を習いたいと思う理由を見てみましょう。調査では「非常に習いたい」「まあ習いたい」と回答した人に、右に示す15の選択肢を提示して、複数の回答を認める方式で質問を行いました。

1. いい職場につけるから 20.7
2. 収入が増えるから 11.3
3. 仕事で必要 17.6
4. 最新の情報を身につけるため 33.9
5. 国際間の共通語として 13.9
6. 重要なことばだから 17.2
7. 先祖のことばだから 0.5
8. 日本特有の文化を理解するため 35.7
9. 日本が好きだから 12.4
10. 日本を旅行する時に、旅行をもっと楽しめるように 23.2
11. おもしろそうだから 29.5
12. 友達・恋人などとのコミュニケーションに必要 9.9
13. 学びやすいから 4.0
14. すでに学習していたから 6.3
15. その他(具体的に) 3.4

回答の多かった「8.文化理解」「4.最新情報」「11.おもしろそう」「10.日本旅行」の4項目について、回答率上位の国と地域の割合をグラフにしてみましょう。例えば、「4.最新情報」の場合、アジア諸国をはじめ開発途上国が上位を占め、「11.おもしろそう」の場合は、ヨーロッパをはじめ先進国が顔を揃えているといったように、項目ごとに国と地域の特色があらわれているのがおわかりいただけると思います。

8.文化理解

4.最新情報

11.おもしろそう

10.日本旅行

日本語観国際センサスでは、日本語学習について他にもいくつかの項目が調査されています。誌面の都合ですべては紹介できませんでしたが、それらの結果を総合的に分析し、日本語教育の政策立案に応用することも可能です。日本語観国際センサスは学問的好奇心と政策的興味が融合した、世界でも数少ない興味ある国際比較調査であると思います。

ここに示した日本語観国際センサスは、1997年1月から1998年3月までの間に世界27か国で実施されました。この調査は、文部省科学研究費補助金(創成的基礎研究費)「国際社会における日本語についての総合的研究」(代表 水谷修)の助成を受けて行われたものです。なお、調査の概要については「国語研の窓」2号3号を参照してください。

  国際社会における日本語についての総合的研究:http://www2.ninjal.ac.jp/jalic/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。