第5号(2000年10月1日発行)
平成12年8月8日(火)
国立国語研究所講堂
笹原 宏之(言語体系研究部主任研究官)
横山 詔一(情報資料研究部主任研究官)
学校の国語の時間には、1900種類以上の新出漢字を勉強しますが、日常生活の中では、それ以外の漢字を目にすることもあります。それらについて、写真やコピーを見ながら、観察してみました。文学作品には、「鏡」を4つ集めた76画にのぼる「漢字」が使われているなど難しい字が多いのですが、書籍以外でも、変わった漢字は目に入ります。多くの新聞では、餃子(ギョーザ)」の「餃」の字体が省略されていますし、看板では「曜日」の「曜」の字が「日」偏に「玉」となっているものが少なくありません。テレビには、「草(なぎ)」の「
」のように大きな漢和辞典になかったものも登場しますし、漫画にも「儂(わし)」のような漢字が出現します。
最後に、漢字についての心理学実験を参加者に体験してもらいました。「桧-檜」のような漢字のペアを見て、「どちらの字体がより好きか」を判断してもらうというアンケート形式の簡単な実験です。この結果から、参加者は無意識のうちに目にしている漢字の字体から予想以上の強い影響を受けていることを実感したのではないかと思います。
出席者からの質問には、漢字に対する一般の関心の高さがよくうかがえました。
前川 喜久雄(言語行動研究部 第二研究室長)
話しことばは音声、書きことばは文字を利用してそれぞれ伝達されます。このことはよく知られているでしょう。
しかし、音声と文字では、伝達される情報の中身にも違いがあることは、あまり気づかれていないのではないかと思います。話しことばでは、書きことばが伝達する言語情報にくわえて、性別や年齢など、話し手の身体に関する情報、さらには話し手の心的態度に関する情報も伝達されます。
前者は非言語情報、後者はパラ言語情報と呼ばれています。書きことばが言語情報という1チャンネルだけのモノラル放送であるのに対して、話しことばは言語情報とパラ言語情報および非言語情報というふたつのチャンネルをもつステレオ放送なのです。話しことばでは何故ステレオ放送が可能になるのか理解するためには、人間がどうやって音声を生成しているかを理解しなければなりません。
今回のフォーラムでは、音声の生成メカニズムを生理学的な観点から解説し、言語情報が、舌・顎・唇など、喉頭上部の音声器官に強く依存して生成されること、一方、パラ言語情報(と非言語情報)は、喉頭に位置する声帯に強く依存して生成されること、そのため、両方はほぼ独立に制御することができ、上述のステレオ放送が可能になることを、計算機による合成音声のデモンストレーションなどもまじえて解説しました。
第3回「ことば」フォーラム:http://www.ninjal.ac.jp/archives/event_past/forum/03/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。