第6号(2001年1月1日発行)
日本語教育センター 日本語教育研修室 石井 恵理子
国立国語研究所では、昭和42年の日本語教育センター設置以来、日本語教師に対する各種の研修を実施してきましたが、その間、社会状況の変化に伴い日本語教育のあり方はたいへん大きく変わりました。
日本語を学ぶ学習者の急激な増加と多様化によって、日本語教育は新たな教育内容と方法の検討を迫られてきました。日本語学習の場はもはや学校に限るものではなく、地域社会の中に多様な形で存在するなど、日本語を学ぶ場も多様化しています。教える側も、専門家あるいは職業人としての教師ばかりではなく、多くの一般の人々が日本語学習を支えています。日本語を教えるということの意味も、教師の役割や問題意識も非常に多様なものになってきています。
こうした状況を踏まえ、国立国語研究所では平成13年4月から独立行政法人へと組織が生まれ変わるのを機に、現職日本語教師に対する研修を3つの柱を立てた新しい枠組みで展開していきます。
1つ目の柱は、テーマ別の研修です。各教育現場の多様な問題を考える切り口としてさまざまなテーマを設定し、そのテーマに関する講義等によって知識や情報を得たり、問題意識を共有する教師間で意見・情報交換を行う場を提供する短期集中の研修です。より多くの方の参加が可能なように、週末の1日あるいは2日での研修会を東京および各地域で開催します。また、夏季には集中的に1つのテーマについて取り組む5日間程度のワークショップ形式の研修を予定しています。
[研修の1コマ]
2つ目は、日本語教育のリーダーとなりうる人材の育成を目指した研修です。自分自身の直面している問題の解決に向けた取り組みを核として、より広い視野で積極的に他者との連携を進めていく力を1年間の研修を通して身に付けることを目標とします。教育の改善は、教師個人を核としながらも、教師同士の連携はもちろん、学習者に関わるさまざまな立場の人々への働きかけによって学習者を取り巻く環境全体の問題として取り組んでいくべきものです。教育内容や方法を追究していく基盤は、日本語教育実践に基づく日本語教育学の確立と、日本語学、言語学、教育学、心理学、社会学等々他の学問領域との連携によって築かれるものです。また、社会的活動としての日本語教育は、教室の中で完結するものではなく、行政や地域コミュニティー等社会のさまざまな側面との関係によって成り立っています。教師個々の専門性の向上と同時に、他者、他領域に向けての発信と連携の姿勢が日本語教育全体の発展につながるものと考え、研修の目標とするものです。
3つ目の柱として、インターネットなどの通信手段を活用することによって、現場を離れずに参加できる研修を行います。研究会や講演会などの機会は首都圏など大都市圏に集中しており、それ以外の地域では研修の機会がなかなか得られない状況にあります。また、研修会の日時にあわせて時間がとれないという教師も少なくないようです。インターネットなどの活用によって、国立国語研究所との距離や時間の制約が解消され日本語教育関係情報や資料が利用できるようになるばかりではなく、遠くはなれた教育機関や教師同士が容易につながることができます。例えばお互いの教材を使ってみて検討し合うことや、意見や情報を交換し合うことが可能です。参加者相互の知識や経験、教材等を共有し合える教師同士のネットワークは、より現場に即した教師の力になるものと考えます。
このほか、国立国語研究所では、文部省から海外の中等教育機関に日本語教師として派遣される教員を対象とした派遣前研修を実施する予定です。
それぞれの研修についての詳細は、国立国語研究所のホームページ(http://www.ninjal.ac.jp)に掲載する予定ですので、そちらをご覧ください。
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。