国語研の窓

第6号(2001年1月1日発行)

ことばQ&A

二千円札の裏面の文章について

質問

二千円札の裏面の文章にはどのような内容が書かれてあるのですか。また、絵とはどのような関係があるのですか。

回答

文章は、国宝の『源氏物語絵巻』第三十八帖「鈴虫」の「詞書き(ことばがき)」です。詞書きというのは、絵巻物や絵本などの絵の前後や絵の中などに書かれた文章のことです。『源氏物語絵巻』の場合は、まず詞書きがあってその後に絵が続きます。その詞書きは『源氏物語』から、絵に関係のある部分を抜き出したものですので、文章自体はほとんど『源氏物語』と同じです。

右に、原文と口語訳をあげておきました。なお、二千円札の裏面の本文には、この原文がすべて載っているわけではなく、●を入れてあるところから上だけしか印刷されていません。ですから、二千円札の本文だけを読んでも意味は通らないのです。

内容は、仏門に入った女三の宮が読経をしているところに、五十歳になった源氏が遊びに来た場面が書かれています。このあと、夕霧や蛍兵部卿も訪れてきて管弦の宴となります。そこへ源氏の息子である冷泉院から誘いの使いがきて、源氏は若い公達を引き連れて参上し、月見の宴をあらためて開くことになります。二千円札の裏面の絵は、その月見の宴を描いたものです。絵では、源氏と冷泉院が向かい合って何かお話をしていますが、実際は、手前の方に若い公達が四人、管弦に興じている場面も描かれています。

(翻字・口語訳とも 伊藤 雅光)

<原文>
〈口語訳〉
八月十五夜の夕暮れに、仏のお前に女三の宮がおいでになって、そとに近い廂(ひさし)の間から、お庭のどこを御覧になるともなく、お眺めになりながら、お心には仏を念じられ、お口には経文をお唱えになる。若い尼君たちが、二三人、仏に花を差し上げようということで、閼伽坏(あかつき)という器を鳴らす音や、その器に水を入れる音などが聞こえてくる。世俗にいたころとは様子が違う仕事にお互い急いでいるのを思うと、強く胸を打つものがあるのだが、そこへ、いつものように六条院、すなわち源氏の君がお越しになって、「虫の音がひどく鳴き乱れる夕べですねえ」と、

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。