第8号(2001年7月1日発行)
「つうといえばかあ」、「つうかあの仲」といえば、人間同士の意志疎通がうまくいっている状態を表現するときの言葉ですが、この「つう」と「かあ」のもともとの形は、「つ」と「か」といわれています。品詞としては、「つ」も「か」も終助詞と呼ばれるもので、文の一番終わりに使われて、その文全体に意味を添える種類の言葉です。
「かあ」は、終助詞「か」のいくつかある働きのうち、自問するときに使うものがもととなっています。「1万5千円、か。」と、商品の値札を見ながらひとりごとのように言うときの「か」です。その使い方からちょっと変化して、だれもが知っている歌の一節を歌うようなとき、「うさぎおいしかのやまぁ…ってかぁ。」と言ったりしますね、その「てかぁ」の「かぁ」が、「つうかあ」の「かあ」です。
では、「つ」の方はどうでしょうか。こちらは、今の言い方ですと、「~だとさ」というときの、「とさ」にあたるものです。明治のころの雑誌記事に、舟を漕ぐとき、名人は(腕力ではなく)肝っ玉で漕ぐんだとさ、という意味で、「名人は肚(はら)で漕ぐツ」と書かれている例があります。
このように、「つ」と「か」には伝え聞いた事柄や文・歌などの一節を引用する働きと、文の一番終わりに使われるという共通点があります。これに加えて、「~だとさ」、「~だってかぁ」と呼応するような意味を持っていることから、意志疎通がうまくいっていることを、「つ」と「か」の組み合わせ「つうかあ」という表現で表すようになったのではないかと考えられます。
「つ」は、今では使われなくなった言葉ですが、時代を経てそれ自体は使わなくなってしまっても、ほかの言葉や表現の一部として残っているというわけです。もともとの意味がわからなくなってしまうと、本来の意味が「つうといえばかあ」という具合にはいかなくなってしまうということですね。
(加藤 安彦)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。