国語研の窓

第10号(2002年1月1日発行)

暮らしに生きることば

「初詣」

お正月の行事として定着している初詣。意外なことに古い歳時記には「初詣」という語は見られません。俳句の題目としては「恵方(えほう)詣」(その年の恵方に当たる社寺に参拝する行事)のほうが一般的であったようです。調べたかぎりでは,「初詣」が歳時記に登場しはじめるのは明治時代のようです。明治41年の『俳諧例句新撰歳時記』に「大人びて着こなしも言ひき初詣(小野白雲楼)」という句が紹介されているのを見つけました。

ところで,この「初詣」を昔の仮名遣い(表記方法)で書くとどのようになるのでしょうか。答えは「はつまうで」です。

「はつまうで」のような仮名文字の使い方を「歴史的仮名遣い」と呼びます。明治時代には正式な仮名遣いとして公用文や学校教育に用いられました。

もともと,仮名文字は実際の発音を写したもの(表音表記)でした。「歴史的仮名遣い」は平安時代の仮名遣いに基づくものですから,平安時代の発音を反映したものだったのです。

たとえば,「はつまうで」の「まうで」も,最初は[マウデ]という発音であったはずです。[マウデ]は[mau]のように母音が連続する発音(連母音)を含んでいます。連母音は室町時代末期頃には長くのばす発音(長音)に変化していたといわれています。つまり,[マウデ]は[モーデ]に変化したのです。それでも,仮名遣いは[まうで]のまま残っていたのです。

昭和21年9月,国語審議会は現代の発音に基づいた仮名遣いとして,「現代仮名遣い」を発表しました。以後,公用文・教科書などはこれで表記するようになり,今日では広く普及しています。こうして,「はつまうで」も「はつもうで」と書くようになったのです。

(斎藤 達哉)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。