国語研の窓

第10号(2002年1月1日発行)

ことばQ&A

外来語の片仮名での書き表し方

質問

外来語には,「ストップウオッチ/ストップウォッチ」のように,どちらの書き方をしたらよいか迷うものがあります。外来語の片仮名での書き表し方には,何か決まりがあるのですか。

回答

外国の地名・人名を含めて,外来語を片仮名で表記するときのよりどころとしては,平成3年6月に公にされた,内閣告示・訓令「外来語の表記」があります。現在,法令,公用文,マスコミ,学校教育などでは,これが一定の目安とされています。ただしその「前書き」には,いろいろな専門分野や個人,過去に行われた表記をしばるものではないということが記されています。「外来語の表記」の全文は,国語研究会監修『[第6次改訂]現行の国語表記の基準』(ぎょうせい)などで見ることができます。

外国語が外来語として日本語に取り入れられる時,日本語にない発音には,基本的に,日本語の中のなるべく近い音があてられます。例えば英語の“Thank you”の“tha”の音は[θæ]ですが,この音は共通語の典型的な発音にはないため,聞こえの近い「サ」の音があてられ,「サンキュー」となります。

しかし場合によっては,元の外国語の発音の特徴をなるべく残すように,日本語で従来使われていなかった発音を,新たに使うようになることもあります。このような音を「外来音」と言います。質問の「ストップウォッチ」の「ウォ」の音はそのような例です。ほかに,「フォーク」の「フォ」,「ディズニーランド」の「ディ」なども,意外な感じを持たれるかもしれませんが,外来音です。新しい音を書き表すわけですから,表記の面でも,従来にない組み合わせで片仮名が用いられることになります。「ウォ,フォ,ディ」などはそのような表記です。

内閣告示「外来語の表記」では,外来音を表す仮名について,「シェ,ジェ,チェ,ツァ,ツェ,ツォ,ティ,ディ,ファ,フィ,フェ,フォ,デュ」の13を「外来語や外国の地名・人名を書き表すのに一般的に用いる仮名」とし,「イェ,ウィ,ウェ,ウォ,クァ,クィ,クェ,クォ,ツィ,トゥ,グァ,ドゥ,ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ,テュ,フュ,ヴュ」の20を「原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いる仮名」としています。これに基づけば,質問の「ストップウオッチ/ストップウォッチ」については,原語に近く書き表したい時には「ストップウォッチ」,そうでなければ「ストップウオッチ」と書く,ということになるでしょう。

参考:新「ことば」シリーズ6『言葉に関する問答集─外来語編─』,同8『同─外来語編(2)─』(大蔵省印刷局)

(三井 はるみ)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。