国語研の窓

第11号(2002年4月1日発行)

暮らしに生きることば

身体をあらわすことば

1歳の誕生日を過ぎた娘に「あんよが上手」と声をかけると喜んで歩きます。また,「あんよはどれ」ときくと足を指差します。「あんよ」には二つの意味のあることがわかっているようです。

「あし(足・脚)」ということばには,もっとたくさんの意味,用法があります。基本的なものは身体の部分を指すものでしょうが,細かくみると,指す部分の異なる用法に分かれます。「足が長い」では太ももから先を全部指しています。一方,「足が大きい」では足首より先の部分だけを指しています。次に,足の機能に着目すると,歩くことを指しては「彼は足がはやい」と言ったりします。足を使って歩くことは,行くこと,来ることであるとして「隣町まで足を伸ばす」「足が遠のく」などと言います。そして,交通手段を足とみて,交通機関が止まってしまうことを「足を奪われる」と言います。また,機能に加え形の類似性にも着目した表現としては,「机のあし」などの言い方があります。

ことばは暮らしの中で使われるうちに,着目するところによって,意味や用法が広がるものだと考えられます。特に,身体をあらわすことばは身近によく使われてきたことで,たくさんの意味,用法をもつようになってきているのでしょう。そのほか,「頭,顔,目,鼻,耳,口,歯,舌,首,背,腕,手,胸,腹,腰,尻」などにも多くの意味,用法があります。このうち,「手」には「あし(足・脚)」と同じく,指す部分の異なる用法があります。「袖に手を通す」と「手をたたく」です。機能に着目するものや形の類似性に着目する広がりはそれぞれの語にみられます。たとえば,「頭を使う」「顔が広い」「目を配る」「鼻が利く」や,「パンの耳」「やかんの口」「くしの歯」などです。身体をあらわすことばによって,身近な物事が実に生き生きと表現されています。

(柏野 和佳子)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。