第11号(2002年4月1日発行)
2002年4月発行,三省堂,B5判376ページ,10,000円(税別)
国立国語研究所は,設立以来,国民の敬語使用に関する調査をさまざまな領域で重ねてきました。
たとえば地域社会での敬語使用については,愛知県岡崎市民を対象とした大規模な調査を1953年および1972年~73年に実施し,『国立国語研究所報告11 敬語と敬語意識』(秀英出版),『国立国語研究所報告77 敬語と敬語意識-岡崎における20年前との比較-』(三省堂)として報告しました。また職場社会での敬語使用については,『国立国語研究所報告73 企業の中の敬語』(三省堂)として報告しました。
その後国立国語研究所では,そうした成人の敬語使用の土台作りで重要な場となる学校社会で,生徒たちが敬語をどのように意識し使用しているかを把握するための調査を企画し実施しました。本書はその報告書の第1冊目で,アンケート調査による結果をまとめたものです。
調査は約6,000人の中学生・高校生を対象に行ないました。データを分析したところ,たとえば次のようなことが分かりました。
敬語についてどのような意識を持っているかを尋ねたところ,全体的に生徒たちは学校の中で自分自身の言葉遣いをそれほど気にせず生活しているらしいことが分りました。ただし,先生や上級生といった目上と話をするときは,自分の言葉遣いを変えると意識する生徒が少なくありません。話をする状況が改まった場かどうかという〈場〉の要素よりも,相手が自分より目上か目下かという〈人〉,の要素の方をより気にしているようです。
また,具体的な敬語使用を尋ねたところ,目上に対する尊敬語の使用はそれほど一般的ではないようでした(丁寧語レベルの敬語にとどまるようです)。ただし,自称詞の使用状況などを見てみると,男子の場合,友達に対する場合は主として「オレ」を使う一方,先輩や先生に対する場合は主として「ボク」を使うというように,相手による使い分け自体は明確です。敬語の根本原理は,相手や場面による言葉の使い分けですから,成人に達してからの土台は,学校生活の中でもかなり形成されていると言えそうです。
この第1冊目の報告書に続くものとして,面接調査を分析した結果を,報告書の第2冊目として今年度中に刊行する予定です。
本書が,日本語研究だけでなく,学校教育の領域等でも広く活用されることを願っています。
(尾崎 喜光)
「学校の中の敬語」調査(アンケート調査)のデータ公開:https://mmsrv.ninjal.ac.jp/gakkoukeigo/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。