第12号(2002年7月1日発行)
若い世代の言葉遣いは,いつの時代でもよく議論の対象となります。しかし,個人の感覚だけに頼らない,地に足の着いた議論をするためには,客観的なデータを基礎にすることが重要です。ここでは,今年刊行された『国立国語研究所報告l18 学校の中の敬語1-アンケート調査編-』(三省堂,2002年4月)から,若い世代の言葉について考える材料となるデータを一つ紹介しましょう。
中学生や高校生は,学校生活のどのような場面で言葉遣いに気を使っているのでしょうか?そのことを調べるために,次の選択肢の中から,「特に言葉遣いに気を使う」場面を3つ選んでもらいました。
結果は右のグラフのとおりでした。
数値が高いのは,「職員室で先生と」,「来客に尋ねられて」であり,7割~8割の生徒が,上位3つのうちの一つとしてこれらを選択しています。こうした場面は,生徒たちが言葉遣いに最も気を使う場面のようです。
次いで数値が高いのは,「クラブ活動で先輩と」です。逆に,「授業中に指名されての意見」,「クラス討論で意見」,「クラスの中で異性の同級生と」,「生徒会で意見」は数値が低くなっています。
この結果を見ると,生徒たちは,「周囲に自分の発言を聞いている人が大勢いる改まった場か否か」という〈場の改まり度〉よりも,「相手が自分より目上か否か」,あるいは「相手が知っている人か知らない人か」という〈相手との社会的・心理的な距離〉の方を気にして言葉を使っていると言えそうです。
地域差も少し見られます。たとえば,「生徒会で意見」では,「山形中学」の数値が他よりもずいぶん高くなっています。地域的な表現(方言)が豊かに使われる地域であることを考えると,こうした場面で共通語を使うことへの気遣いも含まれているのかもしれません。
(尾崎 喜光)
「学校の中の敬語」調査(アンケート調査)のデータ公開:https://mmsrv.ninjal.ac.jp/gakkoukeigo/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。