第14号(2003年1月1日発行)
「寒い」ということを人に伝えたり共感を求めたりするとき,若者世代は「寒いっすねぇ」と言う人が少なくない。中年以降の男性は「寒いですなぁ」と言う人がいる。では,中年以降の女性はどう言うのだろうか。
日本語は言葉の男女差が明確な言語だ。小説の会話部分を読むだけで性別が判断できる場合も少なくない。どこで分かるかというと,ひとつは自分を指す言葉(自称詞)で,もうひとつは文の末尾(文末表現)だ。
自称詞だと,「オレ」とか「ボク」を使うのは大抵男性であり,「アタシ」を使うのは大抵女性だ。
一方,文末表現だと,「(あしたは)寒いぞ」「寒いぜ」を使うのはおもに男性で,「寒いわよ」「大寒波よ」「大寒波だわよ」を使うのはおもに女性だ。
女性が使う表現を分析すると,(1)「わ」を付ける,(2)「だ」を省略する,(3)「だ」は省略しないが「わ」を付ける,という特徴が抽出される。理屈から言えば,(1)と(2)をミックスした「大寒波わよ」があってしかるべきだが,実在しない点はおもしろい。「だ」を省略せず「大寒波だわよ」とするのが正しい作り方だ。
さて,こうした表現だが,女性であれば皆使っているかというと,そうではない。国立国語研究所が東京都在住者約千人を対象に実施した最近の調査によると,女性で(1)「(雨が)降るわよ」や(2)「(あしたは)雨よ」を使う人は5~6割,(3)「(あしたは)雨だわよ」を使う人は2割にすぎない。年齢層別に見ると,40~50代では(1)(2)は7~8割,(3)は2~4割いるが,いずれも若年層になるほど使用者は急減し,20代では(1)(2)は2~3割,(3)は1割にも満たない。
ではどんな言い方をするようになってきたかと言うと,「わ」を付けない「降るよ」や「だ」を省略しない「雨だよ」という言い方だ。これらは従来おもに男性が使っていた表現だが,20~30代では女性も普通に使い,ほとんど男女共通の表現となっている。
その結果,「降るわよ」「雨よ」「雨だわよ」は,40代以上の女性を中心に残る表現となった。文末表現の男女差は,現在急速に縮まりつつあるようだ。
(尾崎 喜光)
(平成14年に共同通信社より全国各紙に配信された記事に若干の修正を加えたものです。)
※このコーナーは国立国語研究所所員が書いた文章を,発行元の許可を得て転載するものです。
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