第18号(2004年1月1日発行)
国立国語研究所では, 平成14年8月に「外来語」委員会を設置し, 国の省庁の行政白書や新聞など, 公共性の高い場面で使われていながら, 一般への定着が不十分で分かりにくい外来語について, 分かりやすく言い換えたり, 説明を加えたりするなど, 言葉遣いを工夫する提案を行ってきました。
平成14年12月には第1回「外来語」言い換え提案の中間発表を行い, その後各方面から寄せられた数多くの御意見を生かしながら, 平成15年4月に62語を対象として最終発表を行っています。 第1回の最終発表については, 本紙16号に詳しい紹介記事があります。
委員会では, ほぼ半年に1回, 数十語程度を取り上げて, 検討結果を公表することにしています。 今回のこの欄では, 平成15年11月に47語を対象に行った, 第2回言い換え提案の最終発表の概要を紹介します。
第2回言い換え提案の中間発表は, 最終発表の3か月前, 平成15年8月に行いました。 この中間発表は, 第1回最終発表の提案形式をほぼ踏襲しています。 しかし, その後の反響から, 最終発表では, 提案の背景や目的について, 改めてはっきりと述べる必要があることを強く感じました。
重要な点は, (1)公共性の高い場面で外来語をむやみに多用すると, 円滑な伝え合いの障害になるので, (2)特に官公庁, 報道機関などでは, それぞれの指針に基づいて, 言い換えや注釈など受け手の理解を助ける工夫をする必要があり, (3)委員会の提案は, そのための基本的な考え方と基礎資料を具体的に提供するものである, ということです。
また, 中間発表に対して寄せられた御意見を整理するなかで, 特に, 次の二つの点に言及する必要を感じました。 一つは, 言い換え語が外来語に対するものであって, 原語である英語等の訳語ではないこと, もう一つは, 新たに言い換え語を造語して提案することの意義についてです。
言葉遣いの工夫として, 言い換え語と説明付与のどちらが有効であるのか, 一概には決められません。 分かりにくい外来語と言っても, 個々の外来語にはそれぞれに固有の背景事情があるからです。
一つ一つきめ細かな対応をすることが大切ですが, どんな場合でも常に念頭におくべき留意事項として, 委員会では次の6項目を掲げました。
これらのうち, 今回新たに取り上げ, 注意を喚起したのは, (3)の項目です。 言い換え語については, 外来語の原語に対するものであるという誤解が, しばしば見受けられます。 外来語の意味・用法は, 原語での意味・用法をそのまま反映しているわけではありません。 むしろ何らかのずれが見られるのが普通です。 前ページに示した「バーチャル」の例では, 手引き の第1項目で, この点をはっきりと説明しています。
また, (6)の項目に該当するのが, 上に示した「ノーマライゼーション」の例です。 委員会では, この現代社会の重要な外来語に対して「等しく生きる社会の実現」という意味で,「等生化」という言い換え語を新たに造語しました。 この語が「ノーマライゼーション」の表す概念の担い手の一つとなり, その普及定着に役立つものと期待するからです。
第2回言い換え提案の全文は, 研究所のホームページ (http://www.ninjal.ac.jp/gairaigo/)で御覧いただけます。 言い換え語の部分だけでなく, 分かりやすくするための工夫という観点から, 全体として御活用いただければ, 幸いです。
委員会では, 現在, 第3回言い換え提案に向けて検討を開始しています。 その候補となる外来語は, すでにホームページ上で公開し, 言い換え語をはじめ数多くの御意見をいただいています。 それらは, 全て委員会での検討に生かされています。
なお, 第3回は, 中間発表を本年3月, 最終発表を7月頃に予定しています。
(相澤 正夫)
見出し語の後の星印は国民の理解度。 ★☆☆☆は25%未満, ★★☆☆は25%以上50%未満。
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。