第18号(2004年1月1日発行)
昨年9月27日, 広島国際大学国際教育センターにて第16回 「ことば」 フォーラムが開催されました。 広島国際大学 言語・コミュニケーション学科との共催ということで, 多くの学生さんも参加し, 活発な会となりました。
今回のキーワードは「パラ言語」です。 同じ表現でも言い方によって聞いた印象が随分変わってきます。 「ありがとうございます」 という感謝の表現も, 言い方によってはかえって相手に不快感を与えることもあります。 コミュニケーションでは, 言葉の周辺を形作っている声の調子や間のとり方, リズムといった「パラ言語(周辺言語)」が重要となるのです。 今回のフォーラムでは, パラ言語を多角的にとらえるため, 「理論・分析・実践」 の三つの立場から発表を行いました。 学生さんが大活躍し会場を沸かせた「実践編」を中心に, 簡単にご紹介しましょう。
「理論編」(高倉章男:広島国際大学)では, パラ言語の種類やコミュニケーションにおける役割について概観しました。 理論というと少しとっつきにくい印象もありますが, 小説や詩, コマーシャルといった身近なものを題材に説明することで, リズムやテンポ, 抑揚といったパラ言語が, コミュニケーションにおいてどのような役割を担うのか, また読み手や聞き手にどのような印象を与えるのかということを, 具体的にお伝えすることができたと思います。
次は「分析編」(小磯花絵:国立国語研究所)です。 皆さんは, 話しの最中で別の話題に移る時, いきなり次の話題を話し始めるでしょうか, それとも少し「ポーズ (間)」を置いてから次の話題に移るでしょうか。 仮にポーズを置くとして, 具体的にどのくらいの長さのポーズでしょうか。 こういったパラ言語に関する具体的な疑問を持った時に役に立つのが, 話し言葉のデータベースを調べるという方法です。 発表では, 国語研究所で作成中のデータベース『日本語話し言葉コーパス』(本紙17号で紹介)を利用して行われた, 話題とパラ言語についての研究を取り上げ, パラ言語の詳細をどのように調べたらよいのか, 調べることでどのようなことが分かるのか, といったことを, 具体的に紹介しました。
最後は会場を大いに沸かせた「実践編」(久次弘子:広島国際大学)です。 まず, コンビニで働いている二人の学生さんが前に呼ばれました。 そして先生の指示で, 普段の通りに「いらっしゃいませ」と言ってみることになりました。 一人はとても威勢よく「いらっしゃいませ!」, もう一人はボソボソ声で「いらっしゃいませ…」。
ここから久次先生の「指導」が始まりました。 おもむろに取り出したのはバスケットボール。 これは久次先生独自の指導法で,「距離感」を体感するための小道具とのこと。 ボールをポンと人に投げる時, 相手が遠いと込める力も強くなりますし, ボールも太鼓橋のように大きな弧を描きますね。 逆に相手が近いと, ボールの弧は小さくなります。 相手に言葉を掛ける時も理屈は同じというわけです。
ボールを使い距離感をつかむ
そこで, 実際にボールを相手に投げ, ボールの軌跡に合わせながら,「いらっしゃいませ」と発話してみることになりました。 相手が遠い時には, 少し大きめの声で抑揚も付け, 最後は相手の手元にボールがすとんと落ちるように声もすっと落ちる, という具合です。 先生が実演してみると, 確かにボールが相手に届くのと,「いらっしゃいませ」が言い終るのとが見事に一致します。「いらっしゃいませ」 という言葉が相手の胸にしっかりと届いた印象を受けます。 会場がわっと沸きました。 一方学生さんはというと, なかなか先生のようには言葉とボールが合いません。 まだ距離感がつかめていない様子です。 しかし何回か練習するうちに, だんだん合ってくるようになりました。 私たち聴衆は, 学生さんの発話がどんどん変化する様子を目の当たりにし, ボールを使った演習の効果を感じることができました。
またビジネスにおける上司と部下の会話場面を想定したロールプレーイングも行われました。 同じ受け答えでも, パラ言語の違いによって全く印象が変わってきます。 広島弁を交えた先生の熱心な指導のもと, 学生さんが様々なパラ言語を使い分け, 見事に上司と部下を演じ切りました。 会場から盛大な拍手を受け閉会となりました。
(小磯 花絵)
第16回「ことば」フォーラム:http://www.ninjal.ac.jp/archives/event_past/forum/16/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。