第18号(2004年1月1日発行)
第17回 「ことば」フォーラムは, 昨年11月3日14時から16時半にかけて, 富山市の富山国際会議場において開催されました。 参加者数は390人でフォーラムとしては過去最高の参加人数でした。
前半では以下の講演を行いました。
まず, はじめは大西の 「方言の東西境界と富山」 です。 方言研究の世界で「東西対立」として知られている境界線に近い位置にある富山をめぐって最新のGIS(地理情報システム)技術も利用した地図を提示しながら東西対立の意味について話しました。
次は, 富山大学の中井精一氏による「富山方言の地域差」です。 富山大学では地元ならではの地域に密着した方言研究が継続されてきました。 それをもとに富山県内の方言差をそこに住む人々の生活事実と重ね合わせる形で, 具体的な地図を提示しながらお話しいただきました。
前半最後は, 大阪大学の真田信治氏による「社会構造と方言, その変遷」です。 社会言語学者として著名な, また「とやま賞」受賞者として地元富山でもひろく知られている真田氏は, 合掌造りで有名な富山県五箇山の御出身です。 今回は研究の原点にもどっていただき, 五箇山の伝統社会の変遷が方言にどのように反映されているかをお話しいただきました。
以上で理解されるように, 前半の講演は, 全国的鳥瞰(ちょうかん)から, 次第にそこに暮らす人間に接近していくという流れをとりました。 この流れは, 参加された皆さんにもわかりやすかったように思います。
フォーラムの後半は, 講演を受けてのパネルディスカッションです。 このディスカッションは, 会場からの質問を 「質問票」 で受け, それにこたえながら, 講演者どうしが壇上で議論するという形で進行しました。 回収された質問票の数は, 50枚以上にのぼり, 残念ながら短い時間ではとてもすべてにこたえきれません。 講演との関係を考慮した上で, 10件程度にしぼって回答しながら, 話題を深め, 講演に盛り込めなかった内容も含めて, 各講演者が話題を提供しつつ議論を深めました。
今回のフォーラムでは地元放送局, 北日本放送のアナウンサー, 相本芳彦さんに司会をお願いしました。 相本さん自身が富山県の御出身であり, 方言に強い関心をお持ちであったことは, フォーラムにとって幸いしました。 パネルディスカッションの中で, 富山の方言が話題になることが当然多かったわけですが, その際に, 参加者の皆さんに 「こんな言い方を知っていますか?」 と投げかけたり, 実際にマイクを向けて話をしてもらったりということでなごやかな雰囲気を作り上げることに成功しました。 和気あいあいとした中に研究所ならではの学術的な成果も展開するということで, フォーラムの本来の姿勢が貫かれたと自負します。
今回のフォーラムは「方言の科学」と題しました。 これは19世紀の物理学者マイケル・ファラデーによる有名な科学啓蒙書『ロウソクの科学』のもじりです。 実は,『ロウソクの科学』もファラデーの一般向け講演に基づきます。 私たち, いや私はファラデーには及びもつきませんが, 少しでも彼の姿勢にならおうと思い, このような題を付けてみました。 副題を変えることでこれから先も方言をテーマにしたフォーラムを開催する際に利用できることもねらっていますが, さて, 今後も継続できるでしょうか。
今回のフォーラムは, 富山市教育委員会との共催とし, 具体的には富山市立図書館が企画段階から御協力下さいました。 北日本新聞社・北日本放送の後援を受け, また, 富山大学人文学部中井研究室の皆さんにもずいぶんと手助けをいただきました。 市教育委員会・市立図書館, また講演いただいた中井氏には, 事前にかなり宣伝していただき, これらのお力添えが過去最高の参加者数, ならびに充実した内容という成功につながりました。 この場を借りて, 皆さんに感謝したいと思います。
(大西 拓一郎)
第17回「ことば」フォーラム:http://www.ninjal.ac.jp/archives/event_past/forum/17/
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