国語研の窓

第18号(2004年1月1日発行)

ことばQ&A

学校で方言が禁止されていたことがあるのですか?

質問

 学校で方言を使うことが禁止されていたことがあるというのはほんとうですか?今はどうなっているのですか?

回答

明治期以降, 全国共通のことばの普及を推し進める上で, 学校での共通語教育が重視されるあまり, 生活言語として定着していた方言の使用が学校で禁止されたことがあるのは事実です。 例えば, 沖縄県では, 生徒が学校で方言を使うと, 罰として「方言札」と書かれた板切れを首に掛けさせるというようなことがありました。

戦後の小学校学習指導要領を見てみると, 方言使用を禁止しないまでも, 共通語の習得を強調した表現が使われています。

昭和33年版では「小学校の第六学年を終了するまでに, どのような地域においても, 全国に通用することばで, 一応聞いたり話したりすることができるようにする」という記述があります。

昭和43年版以降平成元年版までは,「共通語と方言とでは違いがあることを理解し, また, 必要に応じて共通語で話すようにすること」など, 場面による使い分けに配慮した表現が用いられるようになりますが, やはり共通語の習得に力点がおかれているといえるでしょう。

それが, 平成10年版では方言や共通語という表現自体がなくなっています。

それでは, 学校で方言がどうなっているかというと, 地域, 場面, 状況によりさまざまな使われ方があるというのが現状です。

一度は「方言札」まで導入した歴史を持つ沖縄県では, 学習発表会で方言劇を取り入れる小学校が増えてきています。 その際, 方言指導者を招いて台詞(せりふ)の指導をしてもらっていることが少なくないようです。 また, 山形県三川町の中学校では, 総合学習の一環として, 地域の方言が学べる授業が選択できるようになっています。 共通語の普及が進んだ現代では, いわゆる「伝統的方言」の多くは, 日常語というよりも, 継承すべきことばという色合いが濃くなってきているといえるでしょう。

(當眞 千賀子)

―おわびと訂正―
本紙18号の「ことばQ&A」欄の回答中,小学校学習指導要領の「平成10年版では方言や共通語という表現自体がなくなっています」とありますが,平成10年版でも第5学年及び第6学年の〔言語事項〕の言葉遣いに関する事項の中に「共通語と方言との違いを理解し,また,必要に応じて共通語で話すこと」という内容が残されています。おわびして訂正いたします。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。