国語研の窓

第19号(2004年4月1日発行)

暮らしに生きることば

問題解決のコミュニケーション

保育園児の自由遊びを観察していると,おもちゃをめぐって「これ貸して。」「だめ!」というようなやりとりをよく見かけます。最近の発達心理学の研究により,このような自分の要求と他者の要求の対立による葛藤(かっとう)は,子供のコミュニケーション方略の発達を促す契機になることが明らかになってきました。

自分と他者の要求が対立するという問題場面に出会った時のコミュニケーション方略は,次のように発達していくこともわかってきました。2歳児は,初めは相手に対して,叩(たた)く,蹴(け)るなどの攻撃をしたり,「嫌い」「アカンベー」などと非難することが多いのですが,次第にそのような攻撃や非難は減少し,言葉で自分の要求を表現するようになっていきます。3・4歳児になると,おもちゃを借りたい方は,はっきりと「貸して」「ちょうだい」という依頼をしたり,代わりのおもちゃを提示するなどの取引をしようとし,おもちゃを使用している方は,「だめ」「~するな」という拒否や自分がそのおもちゃを使用中であるという現状説明をするようになります。

5・6歳児になると,さらに相手の意向を考慮した上で自分の主張やその理由を説明したり,相手の特性に応じて異なるコミュニケーション方略を使い分けることができるようになります。そして,児童期・青年期を通じて,自分と他者の両方の利益に配慮し,他者との関係も視野に入れながら,問題を解決するためのコミュニケーションを行うことができるようになっていくのです。

近年,職場などでの会話の研究により,認識のずれや意見の衝突が生じた際には,文脈や相手の認識を考慮しながら,質問や説明,意見の表明を行って,相互の認識のずれを修復し共通理解を形成しようとすることが明らかになってきました。しかし,同時に,地位,性別などがコミュニケーションに影響を与え,双方の意見が同等に尊重されないことがあるということも報告されています。問題解決場面においてより良い解決法を探るためには,お互いの考えを尊重しながら建設的にコミュニケーションを行っていくことが大切でしょう。

(杉本 明子)

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。