第20号(2004年7月1日発行)
平成15年度の国際シンポジウムは,「外来語」をテーマにして,平成16年3月21日,23日,24日の3日間にわたって開きました。これまでは異なるテーマの会合を別々に開くこともあった国際シンポジウムですが,今回は「外来語」を焦点として多面的な議論ができる機会とすることを目指しました。
学会,新聞社,放送機関,出版社からの協賛や後援を頂いたり,交通の便の良い都心(有楽町)のよみうりホールと朝日スクエアを会場に選んだりして開催したところ,幅広い方面からのべ448人の方が参加・来聴してくださいました。
世界には,従来なかった新しい事物や概念,考え方を表現するために,主な言語(公用語・国語)の中へ別の言語から言語表現を借用・導入する言語社会が数多くあります。日本もその一つです。
外来語は,新しい概念などを社会にもたらし,技術・学術・経済等の専門領域だけでなく一般の日常生活を豊かにする可能性を持っています。それと同時に,外来語になじみの薄い人にとっては意思や情報が伝わりにくくなるおそれもあるものです。
外来語の持つこの両面をめぐって,それぞれの言語社会では多様な工夫や言語政策が行われています。一方には,言語を活性化する外来語を積極的に取り入れるための工夫があり,他方には,意思の疎通を円滑にするために似た意味を表す新しい表現を自らの言語で作るなどの工夫があります。
今回のシンポジウムでは,こうした外来語への対応を行っている国々から研究者や言語政策担当者を招いて,それぞれの外来語の実情や対応の現状についての講演や討論をお願いしました。これを通して,それぞれの言語社会の抱える外来語を中心とした言語問題への理解を深め,各言語社会における今後の課題や活動の方向について互いに改めて考える機会を得たいと考えたわけです。
会には海外6か国,韓国・中国・ベトナム・英国・アイスランド・タンザニアから言語研究者・言語政策担当者をお招きし,国語研究所員を含めた日本の研究者も加わって,全部で22件の講演・発表とそれに基づく討論や意見交換を行いました。
お呼びした国は限られた数ですが,それぞれの外来語事情は様々です。日本と同様にかつて漢字や漢語を受け入れた韓国・ベトナム,漢字の源となった国で今も漢字の意味や音を駆使して外来語に対応している中国,旧植民宗主国の言語から現地言語への切替え政策を続けているタンザニア,近隣の強大言語圏の中にあって多言語教育政策と並行させながら自国語の保全を強力に推進し続けるアイスランド,複数の民族語が接触した結果生まれた言語(ピジン・クレオール)が生きているパプアニューギニアなどです。
会の名称(副題)の通り,外来語・借用語の多様な姿や様々な課題が具体的に紹介され,これに対する言語政策の在り方について最新の情報が交換されました。この中には,これまで我が国では触れることの困難だった事実も多く含まれていて,講演者や来聴者の皆さんからは,貴重な機会であったというお声を頂きました。
このシンポジウムでの講演や議論の内容は,16年度中に報告書にまとめて公刊する予定です。
(杉戸 清樹)
第11回国際シンポジウム:http://www.ninjal.ac.jp/archives/event_past/kokusai_sympo/dai11/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。