第20号(2004年7月1日発行)
方言が少なくなっているように感じますが,将来は完全になくなってしまうのでしょうか?
国立国語研究所が山形県鶴岡市で過去3回にわたって行ってきた共通語化に関する調査結果を見てみましょう。図は,31の単語について発音してもらった結果を指標化し,年齢別に示したものです(得点が高いほど共通語化が進んでいます)。約40年間で発音についての共通語化がどの年代でも進んでいることが分かります。特に若い人たちの間では1991年調査の段階でほとんどの単語が共通語の発音になっています。アクセントや語彙(ごい)などについても共通語化が進んでいることが報告されています。
図 音声の共通語化(鶴岡調査)
一方で,人々は場面によってことばを使い分けます。家族や友人などと話す場面と見ず知らずの人と話す場面ではおのずとことば遣いが違ってきます。別の調査結果では,地域社会においては,親しい人と話す時は親しくない人と話す時に比べて,方言で話す比率が高くなる傾向があると報告されています。
これらのことから,次のように言えるのではないでしょうか。共通語化は確かに進んでいます。特に若い人たちの間ではその傾向は大です。しかし,一方で地域社会の人たちは話し相手に応じて共通語と方言を使い分けています(若い世代に現在でも新しい方言が生まれているという研究報告もあります)。
日本国中どこへ行っても共通語を話せる人が多くなりましたが,それは共通語だけを使う社会になるということではなく,場面によって方言と共通語を使い分ける社会が今後も続くことを意味しているのではないでしょうか。私たちが生きている間に方言がなくなることは考えにくいと思います。
(米田 正人)
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。