第21号(2004年10月1日発行)
国立国語研究所「外来語」委員会は,公共性の高い媒体で使われている分かりにくい外来語について,分かりやすくするための言葉遣いの工夫を,提案しています。第1回(平成15年4月,62語),第2回(同11月,47語)と提案を重ねるうちに,提案の趣旨は次第に理解され,徐々に効果が現れてきていると感じています。
本提案では,官庁の行政白書や新聞などに使われ,国民がよく見聞きしながら,分かりにくいと感じることの多い外来語を,対象にしています。第3回では,そうした外来語の中でも特に,国民が社会生活を営む上で,理解しておく必要性の高い概念を表す語を中心に検討しました。言い換え等の分かりやすい言葉遣いの工夫が望まれ,委員会として結論の出た32語について,このほど発表を行いました。その全文は,国立国語研究所ホームページに掲載しています。
「ハザードマップ」という外来語は,防災に関する重要情報が記された地図を指す語として,国民生活に密着した場面で使われ,行政文書や新聞などで,最近よく見かけるようになってきた言葉です。ところが,この言葉の意味を理解している人を調査すると,国民全体で20.3%にとどまっており,分かりにくいと感じる人の多い外来語です。
「ハザードマップ」という言葉について,言い換え等の分かりやすい言葉遣いの工夫が求められる理由には,もう一点,指し示す意味に混乱が見られるという点をあげることができます。この言葉は,専門語としての本来の意味は,災害に遭う可能性の高い地域を色分けして示した地図を指し,一般語として広まり始めた当初も,その意味で使われていました。ところが最近は,災害の際の避難場所や避難経路を示した地図を指して用いられることも増えており,指し示す対象があいまいになってきています。
防災という,正確な情報伝達が欠かせない場面で,指示対象のあいまいな言葉が使われることは,重大な誤解を生みかねません。「ハザードマップ」の場合は,前者の意味では「災害予測地図」,後者の意味では「防災地図」というように,意味を誤解なく伝えることのできる言い換え語を使い分けることが,求められるでしょう。
(田中 牧郎)
見出し語の星印は国民の理解度。★☆☆☆は25%未満であることを示す。
「外来語」言い換え提案:http://www.kokken.go.jp/gairaigo/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。