第24回「国立国語研究所の歩み―西が丘時代を中心に―」
第24回 「ことば」 フォーラムは, 昨年12月18日(土)の午後2時から4時半まで,国立国語研究所の講堂で開催され,175名の参加者がありました。
今回は立川への移転を前に,研究所が約40年間お世話になった北区西が丘での最後のフォーラムとなりました。そこで,これまでの研究所の調査・研究を振り返り,それらが世の中にどのような貢献をしてきたかを説明するとともに,研究所の今後の方向性について考えてみることにしました。
フォーラムは三部から構成されています。
第一部「これまでの歩み」では,所長と研究員の二つの発表がありました。
- 甲斐睦朗「国語研究所の“西が丘時代”」では,“西が丘時代”の国語研究所の仕事の概要を説明しました。具体的には,研究所の仕事と言語生活の向上,言語政策,国語審議会とのかかわりなどです。
- 森本祥子「写真でみる国語研究所の歴史」では,半世紀にわたる研究所の歴史を,写真を用いながら説明しました。
第二部「それぞれの分野から」では,4名の研究員が発表しました。
- 三井はるみ「話し言葉―方言研究を中心に―」では,<1>「地域の中での多様性・動態をとらえる―社会調査―」,<2>「地域差の実相をとらえる―言語地図―」,<3>「話し言葉の姿をありのままにとらえる―談話資料―」などを話題として取り上げました。そのなかでも,言語地図・方言文法地図を中心に,共通語の背景(共通語と方言),「ゆれ」の問題をくわしく説明しました。
- 山崎誠「用字と用語―語彙(ごい)調査の果たした役割―」では,まず<1>「漢字について」で,「常用漢字表,JIS漢字,電子政府,人名用漢字」などをキーワードとして,国語研究所が異なる目的をもった漢字の問題に対してどのように対応してきたかを紹介しました。つぎに<2>「用語について」では,雑誌・新聞・教科書・テレビ放送の調査結果をふまえ,日本語の語彙の全体像の記述から何が見えてくるかを紹介しました。
- 金田智子「日本語教育―教師の研修を中心に―」では,<1>「過去30数年を振り返る」,<2>「学習者に何を教えるか」,<3>「学習者にどう教えるか」,<4>「教師を育てること」を話題として取り上げました。そのなかでも,研修事業にかかわる「どのような教師をいかに育てるか」に重点を置いて発表しました。
- 杉戸清樹「言語生活」では,「社会言語学」の調査が世界的に活発になる時期の20年前に日本では既に「言語生活」という分野が確立しており,国語研究所がその調査・研究のセンターとなり,多くの成果を挙げてきたことを説明しました。そして,今後も「言語生活」を研究所の活動の<大黒柱>に据えるべきであることを提言しました。
第三部の質疑応答では会場から多くの御質問・御意見が寄せられました。そのなかでも,現在,若い人の言葉遣いが乱暴になってきているのではないかという御質問に対しては,杉戸研究員が実際の調査データを示しながら,「丁寧な場面では丁寧に,気楽な場面では丁寧ではなく」という傾向が顕著に見られており,将来的にはこの傾向が助長されていくであろうと予想しました。また,御質問の中には,国語研究所が松竹映画「砂の器」(1974年)のロケ地になった時のエピソードの紹介を求めるものもありました。これには会場から当時,方言研究室員でいらした佐藤亮一東京女子大学教授のユーモアあふれる御回答があり,会場がわきました。
最後に韮澤理事の閉会のあいさつの後,和やかな雰囲気の中で,会を終えることができました。
(伊藤 雅光)

第24回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/24/
『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。