国語研の窓

第25号(2005年10月1日発行)

第26回「ことば」フォーラム報告

第26回「ことばと国際理解」

参加者は約180名,満員盛況での開催

国立国語研究所が立川市に移転して2回目の「ことば」フォーラムが,武蔵野市国際交流協会との共催で,7月30日(土)午後,武蔵野スイングビルのレインボーサロンで開催されました。

「国際理解の促進」という観点から言語(ことば)の教育の在り方について考える

当日は以下の3件の発表・発題がありました。

1 国語教育の立場から ―これからの時代に求められる国語力について

氏原基余司氏(文化庁国語課)が文化審議会(国語分科会)の答申要約を引用しながら「これからの時代に求められる国語力を身に付けるための方策」について自身の教員経験も踏まえながら展望しました。具体的には,国語力をつけることと,社会・文化・地域や家族との関係性などを基盤にした「情緒力」の育成とは密接な関係にあり,さらにこの「情緒力」を育(はぐく)むことが,論理的思考力を伴う健全な知的活動にもつながっていることなどについて語りました。

2 日本語教育の立場から ―日本語教育の可能性と醍醐味

野山広が日本語学習者数の増大と多様化の状況を踏まえながら,将来到来するであろう「多文化共生社会」に対応した日本語教育の在り方について触れ,その可能性,困難さ,醍醐味についてビデオによる事例の紹介も交えながら言及しました。具体的には,昨年,総務省が重点施策の中で初めて「多文化共生社会」という用語を用いたことや,日本経済団体連合会が外国人受入れ問題に関する報告書の中で「多文化共生庁」という新省庁(機関)の設置を提言したことなどを取り上げながら,国際理解や共生社会に対する意識の高まりを紹介するとともに,国語・日本語・英語(外国語)教育の連携の重要性を改めて指摘しました。

3 英語教育の立場から ―国際理解のための英語教育

松本茂氏(東海大学教育開発研究所)が英語の授業,教科書の問題点,変化が遅い現場の現状について語りながら,こうした状況に対応し英語教育の改善に取り組む文部科学省の様子や,「英語が使える日本人」育成のための行動計画などについて触れました。そして,今後の課題として,コミュニケーションを基盤とした言語(ことば)の教育の展開を挙げました。具体的には,英語を使用する活動を積み重ねつつ,対話力・コミュニケーション能力をより育むために,教室での活動だけで完結せず,地域とのつながり(ネットワーク)を強化しながら,Project-Based-Learningなど日常の関係作りの中で,英語を使う必然性の高い場面をより多く作る工夫をすることが肝心であり,こうした活動こそが意味ある学びとなっていくことを指摘しました。

「たじろがない」「おたおたしない」姿勢や心構えの重要性

フォーラムの後半では,コメンテータの杉戸清樹(国語研究所長)と山西優二氏(早稲田大学)から,「言葉の多様性に対して『たじろがない』『おたおたしない』柔軟な姿勢や心構えを持つことが,国際理解のためには肝要であること」や「言葉そのものと文化の関係について,人と人との対話や関係作りの中からより深く理解しあうことが重要であること」が指摘されました。その後会場からの質疑に対して発表者から応答が行われました。最後に,国際理解につながる言語の教育とは「ことばを学ぶことを通して自尊感情を培い,共感・信頼関係を他者と作れるようになることであり,ひいては共生社会の構築や平和の実現にもつながる教育」であることが確認されました。

(野山 広)

第26回「ことばと国際理解」

  第26回「ことば」フォーラム:http://www.kokken.go.jp/event/forum/26/

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。