国語研の窓

第25号(2005年10月1日発行)

ことばQ&A

結婚式での「きまり」

質問

結婚式で親類を紹介したり,席次に名前や肩書きを書いたりするときの「きまり」はありますか。

回答

この問題は言葉の規則としての「きまり」というより,むしろ言葉の文化や生活上のしきたりとしての「きまり」に属することがらと考えるとよいでしょう。

例えば両家の親類が初めて顔を合わせる場面で,新郎の祖父の長兄を何というか,といった質問があります。回答としては,「大伯父(おおおじ)」ですが,書き言葉で席次にそう書いて通じるかというと,「大伯父」とはどう読むのか,「ダイハクフ」か,といった別の疑問を生んでしまうでしょう。話し言葉でも「おおおじ」と紹介しても聞きなれない上に親族の中での位置づけは,即座にはわからないでしょう。実際にはこの質問を,新郎の祖父の長兄を「何と言うか」,ではなく「どう紹介したらよいか」と考えれば,特別な用語を用いないで「祖父の長兄」にあたる誰それ,とすればすんでしまいます。

しかし,改まった場面では特別な言葉をつかって丁寧に言わなくてはならないのではないか,といった考え方が起こりがちです。

ほかに,「ジナン・ジジョ」として戸籍通り「二男・二女」と書いてよいかどうか,そう書いてあるのをどう読めばよいか,といった質問もあります。言葉の規則に照らしてみれば,公的な漢字表記では「ジナン・ジジョ」は「次男・次女」だけで,「二男・二女」は「ニナン・ニジョ」という語に見なすことになります。でも話し言葉で「ニナン」と呼んで通じるでしょうか。戸籍の表記と話し言葉で使う言葉とは,違っていて当然といえます。

さらに席次で姓名を詳しくせず,従来「〇〇様令夫人(様)」としたけれど,妻を公的な立場で招待する場合,その夫を何と呼ぶか,などという質問も寄せられています。

長寿社会や,親類関係の変化,あるいは男女の社会参加の変化など,人間や社会の「いとなみ」のほうが,今までの言葉の習慣に先んじている,ということでもありましょう。

間違っていない,恥かしくない「言葉のきまり」を知ることは大事ですが,時には「生活」と「言葉」のかかわりを見直す必要もありそうです。

(山田 貞雄・塚田 実知代)

※このコーナーは,当研究所に寄せられた言葉についての質問をもとに作成しています。

『国語研の窓』は1999年~2009年に発行された広報誌です。記事内のデータやURLは全て発行当時のものです。